2016 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属酸化物ドメイン境界での酸化物イオンダイナミクスと機能
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16K13665
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菅 大介 京都大学, 化学研究所, 准教授 (40378881)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酸化物ヘテロ構造 / 酸素配位環境 / 輸送特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ヘテロ構造化した遷移金属酸化物中に形成される特異な酸素配位環境に着目して、それが示す機能特性およびその起源を探求した。いかに主な成果を列挙する。 (1)規則配列した酸素欠損を有するブラウンミレライト構造酸化物SrFeO2.5 (SFO)とペロブスカイト酸化物DyScO3 (DSO)から構成されるヘテロ界面に着目した。パルスレーザー堆積法でDSO基板上にSFO薄膜をエピタキシャル成長させ、SFO/DSOヘテロ界面を作製した。走査型透過電子顕微鏡における断面観察から、SFO薄膜領域で見られた周期構造が、薄膜/基板界面領域では消失していることを見出した。これは、SFOとDSOとの間の構造ミスマッチを解消するために、界面領域におけるSFOの酸素欠損の規則配列が消失したためと考えられる。ここで見出した結果は、ヘテロ界面における輸送特性が薄膜層と異なる結果を示すものである。そこでヘテロ界面の輸送特性評価を室温から500Kの温度範囲で実施した。試料には、フォトリソグラフィーとイオンミリングで、ヘテロ界面に直接電極をコンタクトさせた配置の素子構造を採用した。作製した素子構造のシート抵抗の温度依存性を測定したところ、シート抵抗は非常に高いままであり、そのシート抵抗は温度の増加とともに低下し、絶縁体的(または半導体的な)振舞いを示すことが分かった。この振舞いはSFO薄膜のそれと同じものであり、酸素量が2.5のままでは、酸素配位環境の変化がSFOの輸送特性に与える影響は小さいことが分かった。
(2)4d遷移金属酸化物中の酸素配位環境(酸素八面体の歪み)が機能特性に与える影響の評価を行った。XAS-MCD測定から、酸素八面体歪みと軌道磁気モーメントとの相関を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の取り組みを通して、酸化物ヘテロ界面などの局所領域に形成される特異な酸素配位環境の観察やそれに関連する物性評価技術を確立した。これらの技術を用いて得られた実験結果からは、ヘテロ界面における構造ミスマッチをうまく利用することで、これまで難しいとされてきた酸素欠損の配列の変調または制御が可能であるという重要な知見を得た。これは新しい物質開発手法としてのヘテロ界面の可能性を提示するものであり、目標である「局所領域における特異な酸素配位環境(もしくは酸素欠損の配列)を利用した物質機能開発」につながる成果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘテロ界面やドメイン境界などの局所領域における特異な酸素配位環境に着目しながら、物質機能開発を継続する。局所領域における酸素量を維持して酸素原子配置を変化させるだけではなく、ポストアニール処理などを利用して局所領域における酸素量自体も変調することで、機能特性の探求を推進する。特異な酸素配位環境が形成されるようなヘテロ界面を設計・作製を継続するとともに、SPMを基礎とした局所電流評価システムの立ち上げもさらに進めつつ、局所領域における物性評価を実施する。
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Causes of Carryover |
想定した計画よりも、輸送特性評価に関連した測定機器の調整に時間が必要であった。そのため試料作製回数が減少した。このことに伴って試料作製に必要と予定した物品の購入が必要でなくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も、様々な条件下でのヘテロ構造作製およびその物性評価の実施を計画している。繰越分は、試料作製およびそれに関連した実験に必要となる物品に充てる予定である。
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