2016 Fiscal Year Research-status Report
不凍タンパク質が示す相互作用の解明:拡散・吸着ダイナミクスの蛍光1分子計測
Project/Area Number |
16K13672
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐崎 元 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (60261509)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 不凍タンパク質 / 蛍光一分子計測 / 共焦点蛍光観察 / 拡散 / 吸着 |
Outline of Annual Research Achievements |
下記の3項目を実施した. 1.蛍光ラベル化不凍タンパク質の調製:不凍タンパク質(AFP: Anti-Freeze Protein) type III (以下,AFP-IIIと略記)を蛍光色素fluorescein isothiocyanate (FITC:青色励起)でラベル化した.ラベル化条件を最適化したところ,約13%のAFP-IIIをFITCでラベル化できた.また,これとは別に,共同研究者のMaddalena Bayer博士(アルフレッドウェゲナー研究所,ドイツ)より,遺伝子組み換えにより100%の割合でrhodamine(緑色励起)で蛍光ラベル化した不凍タンパク質(極地の海氷の下に生息する珪藻由来)を提供いただいた. 2.蛍光一分子観察のための光学系の立ち上げ:カバーガラスおよびプラスチック材を用いて,蛍光観察用のセルを作製した.そして,セルを次亜塩素酸および超純水でよく洗浄した後,セル底部にプラスチック・ビーズ(粒径1 ミクロン)を吸着させ,その上に無機基板材料(AgI結晶,マイカ,グラファイト)を配置することで,基板上で蛍光ラベル化AFPを1分子観察するための光学系を立ち上げた. 3.氷の結晶成長に及ぼすAFP-IIIの効果:まず,純粋な過冷却水中で成長する氷結晶は円板状の形状を有するが,AFP-IIIの濃度が増大するほど,平らな面(ファセット)で囲まれた形状に変化することを見出した.また,高過冷却度下では,純粋な過冷却水中では丸みを帯びた樹枝状の氷結晶が成長するが,AFP-IIIが存在すると平らな形状の細い枝からなる樹枝状の氷結晶が成長した.さらに,溶液層の厚みが薄い(100ミクロン)蛍光観察用チャンバーを新たに設計・作製した.そして本チャンバーを用いて,氷結晶および周囲のAFP-III水溶液を,レーザー共焦点蛍光顕微鏡を用いてその場観察できることを確認した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.無機基板上で蛍光一分子観察するための研究計画は順調に進行している. 2.一方,氷の結晶成長に及ぼすAFP-IIIの効果についての計画では,以下に示す予想外の結果となった.実験計画では,十分な反応収率でAFPを蛍光ラベル化できると予想していた.しかし,実際にAFPと蛍光色素を化学反応を用いてラベル化すると,蛍光ラベル化収率がおよそ10%程度にしかならないことが判明した(これ以上ラベル化の反応条件をきつくすると,1つの不凍タンパク質分子に複数の蛍光ラベルが反応するため,不凍タンパク質としての活性が低下してしまう).蛍光ラベル化の効率が予想よりも低かったため,氷結晶周囲の蛍光強度分布をその場観察するために,当研究室で融液中での氷結晶の成長観察に使用していた自由成長観察チャンバーを用いることができなかった.氷周囲の水中のバックグラウンドの蛍光強度が予想よりも高かったことがその原因である.そのため,溶液の厚みが100ミクロンと薄く,バックグラウンドの蛍光強度を十分に低下させることができる蛍光観察用チャンバーを新たに設計・作製した.新たに作製した観察チャンバーでは,自由成長観察チャンバーを用いた場合の様に「氷の結晶学的方位」を自在に調整することはできないが,観察実験の回数を増やすことで対応できると考えている. 以上1,2より,おおむね順調に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は,以下の3点を行う予定である. 1.蛍光一分子観察:H28年度に作製した観察用セル及び光学システムを用いて,無機基板材料(AgI結晶,マイカ,グラファイト)上でFITCラベル化AFP-IIIおよびrhodamineラベル化珪藻由来AFPの蛍光一分子観察を行う.そして,無機基板上でのAFPの拡散係数及び滞在時間を決定する.これにより,各不凍タンパク質分子が無機基板とどのような分子間相互作用を取り合うか,を理解する. 2.氷の結晶成長に及ぼすAFP-IIIの効果:H28年度に作製した蛍光ラベル化AFP,および溶液層の厚みが薄い(100ミクロン)蛍光観察用チャンバーを用いて,様々なAFP濃度,過冷却度のもとで氷の成長観察実験を行う.そして,1)AFPが不凍効果を示す温度領域をまず決定する.次に,2)レーザー共焦点蛍光顕微鏡でその場観察することで,氷表面に吸着した蛍光ラベル化AFPの密度を決定する.そして,不凍効果が従来のギブスートムソン・モデルで説明することができるかどうかを明らかにする.また,成長している氷周辺の水中での蛍光ラベル化AFPの濃度分布を計測することで,蛍光ラベル化AFPの拡散係数や,氷表面で排斥される割合を決定できると予想している.さらに,3)過冷却が大きくなるにつれて,AFP水溶液中で成長した氷結晶の形状が,平らな面(ファセット)で囲まれた形状から細い枝からなる樹枝状へと変化するため,AFPが氷結晶の成長に及ぼす効果も大きく変化するものと予想される.この点についても計測を行いたい. 3.上記1および2で得られた成果を総合することで,不凍タンパク質が氷結晶の成長に及ぼす効果を総合的に明らかにできるものと予想している.
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