2016 Fiscal Year Research-status Report
相対論的フェムト秒電子線パルスを用いた新しい電子線結晶学の挑戦
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16K13687
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
楊 金峰 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (90362631)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超高速電子回折 / フェムト秒電子線パルス / 結晶構造解析 / 高周波電子銃 / 相対論的電子線パルス |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、タンパク質などの生体高分子結晶構造解析可能な大強度フェムト秒超短パルス電子ビームの発生方法を確立すると共に、電子回折測定器を高度化し、相対論的フェムト秒電子線パルスによる結晶構造解析装置を構築した。 1)高周波(RF)電子銃に寿命が長く、時間応答性が高い無酸素銅カソードを利用して、カソードを励起するレーザーの高密度化を行い、タンパク質結晶構造解析可能な電子数が10の7乗個、パルス幅が100fsの短パルス電子ビームの発生方法を確立した。また、カソード交換可能な機能を設計しており、今後に量子効率が高いカソード材質を交換することにより、必要に応じて更に1桁高い大強度電子線パルスの発生が期待できる。電子ビームのエネルギーについては、RF電子銃に入力するRFパワーを調整することにより、1~4.5MeVの範囲で可変であり、物質結晶構造を応じた電子回折の測定が可能となった。 2)エネルギーが高い電子線を利用する場合(特に相対論的電子線パルスの場合)、シンチレータを経由して電子回折図形の測定が必要である。本研究では、今まで開発に成功したTlをドープしたCsIシンチレータを高度化し(素子のサイズ、シンチレータの厚さの最適化)、単一フェムト秒電子線パルスによる電子回折図形を観測可能な検出器を製作した。更に、試料の下流に投影レンズを製作・設置し、回折図形の拡大より面間隔が大きい結晶構造の解析も可能となった。この装置を用いて、エネルギーが3MeV、パルス幅が100fs、電子数が10の5乗個の単一電子線パルスによる金、シリコン及び合成フッ素雲母の結晶構造解析に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1)単一相対論的なフェムト秒電子線パルスによる電子回折図形の観測に成功。この成果は結晶の損傷を受ける前に結晶の電子回折図形を撮影できることを示しており、これにより、重要な生命機能を担うタンパク質や生体超分子複合体の構造解析が損傷の影響なく実現可能であることを示唆している。また、このシングルショット電子回折測定技術は不可逆な構造変化の観測やダイナミクスの解明に必要不可欠な技術であり、これを用いた今まで不可能であった不可逆な構造変化ダイナミクスの研究が可能となる。 2)1~4.5MeVの広い範囲での照射電子エネルギーが可変できる技術と実験装置は、金属酸化物、有機高分子、タンパク質などの生体超分子複合体などの様々な物質における電子照射による損傷や自己修復メカニズムの研究にも大きく貢献する。
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Strategy for Future Research Activity |
1)フェムト秒電子線パルスを用いて、結晶が損傷を受ける前にシングルショット電子回折図形を撮影する方法を確立する。そのために、結晶をいろいろな角度に傾斜させて電子回折図形を撮影し、結晶構造を決定する構造因子の振幅や位相などの情報を算出し構造解析を試みる。タンパク質などの試料の選定、製作、構造解析については、大阪大学産業科学研究所生体分子研究分野の専門家の協力やアドバイスを得て有機的に研究を進める。 2)フェムト秒電子線パルスを用いて、時間分解電子回折の測定により、構造変化ダイナミクスの研究を推進する。そのために、フェムト秒電子線パルスを時間同期したフェムト秒レーザーを試料に照射し、光励起による結晶構造変化の時間発展を、フェムト秒電子線パルスを用いて時間分解電子回折で測定する。また、励起レーザーの波長、偏光や強度への依存性を調べて、構造変化のメカニズムを研究し、機能の解明と応用への展開を目指す。
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Causes of Carryover |
物品費の余り端数。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額の18円を国に返還します。
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