2016 Fiscal Year Research-status Report
アンチストークス蛍光輻射を使ったナノ領域のレーザー冷却
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16K13696
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
梶川 浩太郎 東京工業大学, 工学院, 教授 (10214305)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近接場光学 / レーザー冷却 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノ領域における局所的な温度制御法(加熱と冷却)の開発は、基礎科学への貢献だけでなく、高精度な合成化学や微細加工、光熱治療などの医療の分野への応用が期待できる。本研究では、励起光より高いエネルギーの蛍光が輻射される現象であるアンチストークス(AS)蛍光輻射を使ったレーザー冷却が、溶液系でも使えることを明らかにする。 研究では、冷却手法にはアンチストークス(AS)蛍光輻射時による冷却効果を使う。AS蛍光は、励起光より高いエネルギーの蛍光が輻射される現象である。輻射光のエネルギーには、励起光のエネルギーに加えて振動や回転等の熱エネルギーが取り込まれるため冷却が起こる。 1.温度測定のための光学系 溶媒をエタノールとしたローダミン101を用いて、アンチストークス蛍光測定によるナノ領域の温度測定が行えるような光学系を構築し実験を行った。この色素は量子効率がほぼ1であり、実験により633nmの光励起により強いAS蛍光を輻射することが確認されている。そのためには、冷却CCDを用いてアンチストークス蛍光のスペクトルを測定した。 2.レーザー冷却のための光学系の構築 1.で用いた溶媒をエタノールとしたローダミン101溶液は、冷却媒質として用いることもできる。高屈折率ガラスを使ったプリズム底面での全反射減衰法を使うことにより、色素をプリズム底面から染みだしたエバネッセント光で励起する。エバネッセント光は、増強されており効率よく色素を励起できる。また、その染みだし長は、波長の半分程度であるため、冷却される領域は厚さ300nm程度、面積は励起光のスポットのサイズに限られている。この条件で、25mWのレーザー光をレンズで直径1ミクロン程度に集光することにより、計算上は毎秒3Kの冷却速度が得られる。実際に予備的な実験を行い、冷却ができることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体の研究項目は1. 溶液系でAS蛍光輻射を使った局所的な(ナノ領域の)レーザー冷却を実現、2. 温度の2次元分布を画像化できる顕微光学システムの構築、3. 計算機シミュレーションとの比較 である。本年度は、項目1を中心に研究し、冷却ができることを確認したため、概ね順調に進展していると判断した。冷却はエバネッセント光の強度が小さくなることにより確認しており、別に測定した検量線からその絶対値を求めることができる。一方で、有限要素法を用いた計算機シミュレーションの準備を進めており、次年度の準備も行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、冷却した温度を高い精度で求めること、理論から予測されいる冷却値との比較を行うことが必要である。次年度はこれらを中心に研究を進める予定である。高屈折率ガラスを使ったプリズム底面での全反射減衰法を使うことにより、色素をプリズム底面から染みだしたエバネッセント光で励起する。エバネッセント光は、増強されており効率よく色素を励起できる。偏光解析と組み合わせることにより高い感度での計測系を構築する。有限要素法は光学計算だけなく熱伝達計算等もできるため、単一のプラットフォームで複数の物理現象をシームレスに解析できる。計算では冷却された領域からの熱拡散をシミュレートして、冷却温度を予め求めておき、実験条件を定める予定である。
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Causes of Carryover |
研究の進展により購入予定の光学部品の一部に必要がなくなったものがある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗物品の購入および研究成果の発表のための論文印刷費に充てる予定である。
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