2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13705
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
小川 直毅 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, ユニットリーダー (30436539)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光磁気効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代のスピントロニクスでは, スピン偏極した電子やスピン波を任意/高速に発生し, またその運動を制御する技術が重要となっている. 光によるスピンの制御は最も期待される手法の一つであり, 光磁気効果を中心に多くの研究が行われてきた. その特徴は, 広範なエネルギー領域, 非接触, 高速, サブμmの空間分解能等である. さらに近年, 本質的に光波に付随する「横スピン自由度」の検出とその応用が議論されている. 光の横スピンは近接場や集光スポットの周囲, プラズモンポラリトン, 光干渉波中などで顕在化するが, その物質中電子/スピン系への作用は未だほとんど明らかになっていない. 本研究では, 光の局所場で発生する軌道/スピン角運動量を固体電子系に作用することにより, 物質中での新たな電子スピン励起法の開拓とその実空間観測を試みる. 後者には各種時間分解分光を用いるが, 例えばスピン流の3次元時空間発展の観測は前例がないと思われる. これらの実験により, 新たな局所磁性制御法として「近接場の角運動量を用いた光磁気励起」の学理開拓を行う. 平成28年度はまず (i)100 nmから数十μmの波長を有するスピン波の分散/非相反伝搬の検出のための低温ブリュアン散乱測定系の立ち上げとカイラル磁性体を用いた検証, (ii)トポロジカル絶縁体中スピン偏極光電流の結晶方位依存性の確認, (iii)油浸対物レンズを用いた磁気光学顕微鏡の立ち上げ, を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(i)低温ブリュアン散乱測定系の立ち上げ: 光回折限界スケールでの逆ファラデー効果による光磁気励起は, スピン波とのモード整合も含め未知の実験領域である. 特に(時間/空間)反転対称性の破れた結晶中で発生する電子/スピン/フォノン等の流れは一般に異方的であり, 最近ではジャロシンスキー守谷相互作用等を介したスピン波方向二色性の検出も盛んになっている. スピン波空間伝搬の観測法として, これまでのパルスレーザー光源を用いた時間分解磁気光学イメージング法に並行し, 冷凍機光学クライオスタットを用いたブリュアン散乱測定の立ち上げを行った. これにより実空間観測に比べ高精度でスピン波の分散情報を得ることができるようになった. カイラル磁性体のフェリ磁性相/磁場誘起強磁性相において明瞭な方向二色性を確認し, また波数は限定されるがスピン波分散の観測にも成功している. (ii)トポロジカル絶縁体中スピン偏極光電流の結晶方位依存性: ラシュバ型スピン分裂を示す半導体やトポロジカル絶縁体表面状態においては, 円偏光ガルバニック効果によってスピン偏極光電流が発生することが知られている. 本研究においても「近接場の角運動量を用いた光磁気励起」の検出法の一つとして光電流を用いることを検討している. この際, 試料結晶表面の反転対称性の破れに起因して, 円偏光ガルバニック効果に加え, 同様に偏光に依存する「シフト電流」が発生することが明らかになってきた. トポロジカル絶縁体単結晶薄膜を用い, 光電流の結晶方位依存性を検証した結果, シフト電流の寄与が支配的になりうることが確認された. (iii) 磁気光学顕微鏡の立ち上げ: 回折限界(数100 nm)の空間分解能での時間分解磁気光学イメージングを行うため, 油浸対物レンズを用いたKerr効果顕微鏡の立ち上げと性能確認を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
Far-fieldの円偏光励起では, 光ガルバニック効果や逆ファラデー効果によるスピン偏極電流/スピン波/磁気弾性波の発生が可能であり, 物質のスピン軌道相互作用に応じてより大きな光-スピン変換応答が得られる. 本研究ではこの円偏光を, 光近接場や集光場, 光干渉場中で発生する局所角運動量に置き換え, 物質中でナノスケールでのスピン励起を試みる. 平成28年度に準備した観測系を用い, 主に2つの物質群(典型的なスピン波媒体とスピン流媒体)において光の局所(角)運動量を用いた励起を行い, その時空間発展を光散乱, 時間分解顕微分光, 電子輸送により追跡する. スピン波媒体としては鉄ガーネット薄膜を用いる. ベクトル波を含め様々な偏光状態のフェムト秒パルス光を高NA対物レンズで集光して照射し, 光の横スピンによる逆ファラデー効果を用いてスピン波を発生させる. 集光スポット周辺を油浸レンズ磁気光学顕微鏡によって回折限界の分解能で観測することにより, 物質のスピン系に転写された光のスピン角運動量を検出する. この方法では, マイクロ波分光では到達できない周波数領域のスピン波(強磁性共鳴/反強磁性共鳴/エレクトロマグノン等)の時空間発展が観測できると期待される. 伝搬長が空間分解能に満たない場合は, cw光励起とブリュアン散乱法の組み合わせによりその分散を観測する. スピン流媒体としてはバルク巨大ラシュバ物質であるBiTeBrを用いる. 高屈折率プリズムを用いた古典的な近接場配置, また各種偏光の光波を高倍率の対物レンズで集光した焦点, で発生した光の局所場の(角)運動量を用いてスピン分裂バンドを励起し, その電子/スピン状態を時間分解の電子輸送を用いて観測する.
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Causes of Carryover |
H28年度に交付頂いた予算額において, 研究計画に記載した備品(光弾性変調器)が購入できなかったため, 研究計画を一部変更した. 既存光学/装置/部品を用いた測定系の立ち上げに注力し, 他の備品, 消耗品の購入を次年度に繰り越すこととした.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H28年度に購入予定であったピエゾ微動ステージと長焦点対物レンズの購入を本年度に繰り越している. また消耗品として経年劣化の見られるミラー、レンズ等の交換を行う.
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Research Products
(4 results)