2016 Fiscal Year Research-status Report
双曲性をもつ離散群の正規部分群に関する収束指数スペクトルと余増大度剛性の研究
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16K13767
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
松崎 克彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80222298)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
イェーリッシュ ヨハネス 島根大学, 総合理工学研究科, 講師 (90741869)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 離散ラプラシアン / ケーリーグラフ / 収束指数 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフ上のランダムウォークとマルコフ行列から定まる離散ラプラシアンのスペクトルに関する解析は,古典的な再帰性問題の一般化であると同時に,リーマン多様体における確率過程とラプラス作用素のスペクトルの問題の離散化であると考えられる.幾何学的群論では,有限生成群のケーリーグラフに対してこの問題を考えることは,群の分類における標準的な理論である. 本年度の研究では,自由群のケーリーグラフを扱い,群作用に関する等質性を保ったまま各辺に与える長さを変動させることを考えた.このグラフは幾何学的にはグロモフ双曲空間であり,そこに等長的に作用する離散群に関して,クライン群のパターソン・サリバン理論の一般化が適用可能である.とくに群の軌道の指数的増大度を表す収束指数を次元とする群不変測度が無限遠境界に存在し,その全測度を空間内部の地点から測る関数が重要な役割をはたす.双曲空間および自由群のケーリーグラフで辺の長さが均等の場合は,この関数が群不変 λ-調和関数となり,群の収束指数と商空間のラプラシアンのスペクトルの底との間のある関係式(EPS)が証明される.しかし,辺の長さが不均等な場合はこの理論はこのままでは成り立たず,EPS のみならず,収束指数を具体的に計算する公式さえも知られていない.本年度の研究では,この問題に対する新しいアプローチを提案した. 一方,距離空間としての幾何学的な視点から離れて,自由群のケーリーグラフ上にマルコフ連鎖を考える場合には,各辺に与えられる推移確率が均等でない場合にも重み付きラプラシアンが定義されて,そのスペクトル半径を与える公式も既に知られている.したがって問題は,幾何的に距離で与える辺の重みと,解析的に確率で与える辺の重みの間の適切な対応関係を理解することにある.本年度の研究では,この両者の間の対応関係で EPS を成立させるものを発見することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的ではあまり期待していなかった課題ではあったが,辺の長さと収束指数により変動する重みをもつ離散的ラプラシアンのスペクトルの底と,群の収束指数との対応関係の定式化が今年度は大きく進展した.関係式の最終的な証明のためには,当初,主要な研究課題として想定していた1/2収束指数の問題が関わってくるので,この問題に対する新しいモチベーションも与えられたことになり,研究課題の幅が広がった.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で使われた手法は幾分形式的な計算に基づくところがあったので,その本質的な意味について研究することが必要になってくる,また研究をより深めるために,離散的なラプラシアンに関する研究を総合的に調査し,異なる設定のもとでの結果の関連性を数値実験的に確認することも今後の研究では行う.そこで予想される結果については関連分野の研究集会で発表し,専門家の意見を取り入れた改良を行う.
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Causes of Carryover |
国内外での研究集会に参加する予定だったが,研究計画の進行状況との折り合いがつかず,いくつかを取りやめにしたため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の研究は当初の計画にはなかった方向に進んだため,新しく研究計画を拡大する必要がある.そのため,研究分野の調査と,関連する研究者との研究連絡のための費用として,従来の研究計画に付け加えて使用する.
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