2016 Fiscal Year Research-status Report
多孔性媒質内の流体の挙動に関するミクローマクロ統合数理モデルの構築
Project/Area Number |
16K13776
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
水藤 寛 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (10302530)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マルチスケール / 多孔性媒質 / 表面張力 / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
多孔性媒質内の流れの現象については、マクロとミクロの両方の視点が存在し、それらをつないでマルチスケール統合モデルとするにあたっては、数理モデル構築の上での困難と数値計算上の困難がある。本研究においては、マクロとミクロの視点をつなぐ新しい数理モデルを提案し、様々な応用において有効に機能する計算アルゴリズムを構築することで、この種のマルチスケール問題に対する突破口とすることを目的としている。 本研究で取り上げている多孔性媒質内の流れ解析については、古くから多くの研究が行われ、H. Darcyから始まって、多くのモデルが提案され、実用化されてきている。それらの研究において主に用いられている飽和・不飽和浸透流方程式は、より一般的な流れの解析で用いられるNavier-Stokes方程式を簡略化したものと考えることができ、土質中の流れのように流速が非常に遅いところでは妥当なモデルとあると考えられている。ミクロスケールでのNavier-Stokes方程式からマクロスケールのDarcy則を導こうとする試みは行われているが、特に不飽和状態(土壌間隙中に水と空気の両方が存在する)場合には困難が大きいようである。「複雑な流路形状をもつ多孔性媒質内を、自由表面を伴った流体が、表面張力に由来する圧力ジャンプに打ち勝ちながら進んでいく」というミクロな見方と、「領域全体で速度やその勾配に依存する抵抗力が働いているという条件下での流れ」というマクロな見方を統合し、ミクロにおける諸現象を正当にマクロの方程式に取り込む数理モデルを構築するのが本研究の目指しているところである。研究初年度にあたる28年度は、摩擦型境界条件の適用を通して、多孔性媒質中の流れの現象をモデル化する作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は主に、多孔性媒質中の多数の自由表面の存在に由来する表面張力を、体積力として運動方程式にとりこむための検討を行った。中心となるのは、変分不等式に基づく摩擦型境界条件の適用である。これは、領域中の自由表面において働く力を超関数の形で表現するために有効な手法であり、マクロとミクロの定式化を繋ぐ上で重要な役割を果たすと考えている。また、28年度は多孔性媒質中の複雑な領域形状をモデル化するための検討も併せて行った。流速が遅いため、境界層が発達するような状況ではないが、狭い間隙を流れる流体運動を正しく計算するためには適切なメッシュ配置が必要となる。そのための検討を、試行錯誤を含めて実施した。このように、ほぼ計画に沿って研究が進展していることから、おおむね順調に進展していると判断した。 なお、28年度は研究開始年度であり、まだ成果をまとめて発表する段階には至っていないため、論文発表や学会における口頭発表等は行っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は28年度の成果に基づき、間隙形状の特徴を多孔性媒質の材質の特徴に応じて表面積や間隙率などのパラメータとして考慮することを検討する。具体的な多孔性媒質の間隙内流れの数値計算を行い、ミクロな扱いとマクロな扱いの比較を通して、それを繋ぐモデルの高度化を進めていく。また、表面張力のモデル化についてもミクロな視点から出発した新たな定式化を試みたい。 時間・空間スケールに大きな幅があるマルチスケール問題は自然科学の多くの場面で現れ、そのいずれもが非常に困難な問題となっている。その中で、本研究で扱う多孔性媒質内の流れの問題は、地下水汚染の問題、生体軟組織内の流れの問題、環境シミュレーションにおける植生の影響の問題など、非常に幅広い応用対象を持っているのが特徴である。本研究で目標としている自由表面の運動と表面張力とを介したミクロとマクロのモデル統合は、これらの幅広い応用分野に対して新しい数理モデルを提供するのが特色であり、それらの応用における数値シミュレーションを大きく前進させると予想している。
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