Outline of Annual Research Achievements |
N個の質点が互いに重力を及ぼす一般N体問題(GNBP)の運動は微分方程式で記述され,その運動範囲は複数の保存量によって制限されている.しかしながら,保存量の数はGNBPの軌道を一意的に定めるには不十分である.そのため,数値積分法で近似的にそれらの軌道を計算する他ない.様々な数値積分法の中で,GNBPが持つ全ての保存量を保つものとして,Greenspanの方法(EMI)が知られているが,それは平衡解軌道すら再現できない.それらの平衡解軌道を再現する数値積分法を,研究代表者は提案したが,N=3,4の場合に限られる.また,この解法は角運動量を保てない.
今年度は,上記の数値積分法を一般のNに拡張し,得られた解法(d-GNBP)が平衡解軌道を再現できることを解析的に明らかにした.さらに,可変時間ステップを持つシンプレクティック数値積分法(LHA)も,平衡解軌道を厳密に保つことも示した.しかしながら,d-GNBPは角運動量,LHAはエネルギーを保てないので,双方とも長時間にわたって一部の周期軌道を正確には再現できない.この問題を解決するために,面積保存性を保ちつつ,エネルギー保存性を再現するスケール変換とLHAを組み合わせることで,GNBPが持つ全ての保存量と面積保存性を保つ陽的な数値解法(mc-LHA)を構成した.EMIやd-GNBPでは計算できない周期軌道を,mc-LHA は短い計算時間で正確に再現する.
今までは,保存量,面積保存性を保たない数値解法で得られた結果に基づいて,惑星系の軌道安定性の議論を行ってきた.そのため,軌道が不安定になった場合,その原因が元の物理的性質によるものであるのか,数値誤差によるものであるのかを明確に判別できなかった.高速かつ高精度なmc-LHAを用いて惑星系の軌道計算を行うことで,正確な軌道安定性の評価ができるようになると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画は,(i)研究代表者が開発した数値解法(d-GNBP)を元に,一般重力N体問題(GNBP)の全保存量を保つ改良版d-GNBPを構成する.(ii)d-GNBPと改良版d-GNBPが(1+n)体問題の平衡解を保つことを証明する.(iii)d-GNBPと改良版d-GNBPが平衡解以外に解析的に与えられる3体問題の二等辺三角形解を持つことを解析的に示す.(iv)汎用的な数値解法では再現できない(平衡解軌道を除く)周期軌道をd-GNBPと改良版d-GNBPが再現できることを数値的に確認する.の4点であった.
改良版d-GNBPを構成する代わりに,可変時間刻み幅を持つシンプレクティック数値積分法とスケール変換を組み合わせることで,全保存量を保つ数値解法 (mc-LHA) を実現した.さらにd-GNBPと異なりmc-LHAは高速な解法であるので,計画(i)以上のものを達成している.また,d-GNBPとmc-LHA が平衡解を持つことを証明し,数値的に多くの周期軌道を再現できることを示したので,計画(ii),(iv)と同等なものも達成済みである.なお,計画(ii)の一部の結果は既に論文として掲載されている.改良版d-GNBPをmc-LHAに入れ替えた形で,計画(i),(ii),(iv) の内容を含む論文も現在投稿中である.計画(iii)のみ未達成であるが,mc-LHAが元の二等辺三角形解と同じ範囲を運動することを,解析的に確認した.
計画(i),(ii),(iv)の達成によって,平成 29 年度以降に行う系外惑星の軌道計算の基盤は整った.したがって,進捗状況を「(2) おおむね順調に進展している」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
連星系が持つ惑星の軌道安定性を評価する指標として,Hill 安定性に基づくもの (Szenkovits, F., Mako Z. 2008) が知られていて,その値は数値計算を用いて計算できる.この指標を利用して,片方の恒星を周回する惑星 (S 型惑星) の安定性が評価されている.しかしながら,この指標は制限 3 体問題 (R3BP) 向けのものであり,惑星質量の影響を無視している.わずかではあるが,連星系内の惑星は 2 つの恒星の運動に影響を及ぼすので,極めて長時間にわたって,正確に惑星の軌道を計算するためには,惑星と連星からなる系を一般 3 体問題 (G3BP) と見なす必要がある.今後の研究推進方策としては,R3BP 向けのこの指標を G3BP 向けに拡張したものを,S 型惑星向けに導入する.平成 28 年度に開発した mc-LHA を用いて,数値的にこの新指標を計算することで,実在する S 型惑星の軌道安定性の評価を行う.
また,汎用的な数値積分法を用いたシミュレーションから,恒星と巨大惑星からなる系の三角平衡点近傍に小型の惑星 (T 型惑星) が長時間にわたって存在できるパラメータ (離心率,初期半長軸等) 範囲が導かれている.しかしながら,使用された積分法は保存量を保たないため,その範囲は疑わしい.mc-LHA でシミュレーションをし直すことで,T 型惑星が安定軌道を持つパラメータ範囲を正確に確定する.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請時には消耗品費として, 数式処理ソフトと Intel C++ コンパイラの費用を計上していた. 次年度以降に行う惑星系の軌道シミュレーションでは, 大量かつ高速の計算が必要となるので, 次年度使用額を用いて, 最適化機能を持つこのコンパイラーを購入する予定である.
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