2017 Fiscal Year Research-status Report
革新的な重力 N 体問題向け数値積分法の開発と系外惑星系への応用
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16K13781
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
峯崎 征隆 徳島文理大学, 人間生活学部, 講師 (70378834)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 一般 3 体問題 / 保存量 / 平衡解軌道 / シンプレクティック数値積分法 / 陽解法 / Sundman 曲面 |
Outline of Annual Research Achievements |
Mikkola が提案した可変時間ステップを持つシンプレクティック数値積分法 (LogH) が一般 N 体問題の平衡解軌道を持つことを証明し,それを高精度化することで,多くの安定周期解と全ての保存量を高精度に保つことを示した (論文 Minesaki, Y. 2018, ApJ, 857, 92).同じ平衡解軌道を持つことを示した,昨年度提案の高精度差分法 (d-GNBP) とは異なり,LogH は陽解法である.そのため,惑星軌道の極めて長時間にわたる変化を見るには d-GNBP より LogH の方が適している.LogH は二重星系内を公転する単独惑星の運動を記述する一般 3 体問題 (G3BP) へも適用可能である.
G3BP 向けの Sundman 曲面に基づいた安定性基準を Luk'yanov は示したが,その基準は「最小質量を持つ質点が,残り 2 質点のうちの 1 つの周りを永久に公転し続ける」ためのものである.それに対して,研究代表者は同じ Sundman 曲面から,「指定された時間区間,最小質点が別の 1 質点の周りだけを公転する (S 型軌道を持つ)」ための条件を導出した.その条件に基づく新しい安定性基準を LogH による計算結果が満足すれば,連星系内にある惑星の S 型軌道が大域的に安定である.
数値計算結果を用いて系外惑星の大域安定性を判定する方法は,惑星質量を無視した Hill 曲面に基づいたものしかなかった.しかしながら,数千万--数億年にわたっては,系外惑星が恒星に及ぼす重力を無視できない可能性がある.惑星質量を考慮した G3BP 向けの Sundman 曲面に基づいた安定性基準と高精度な LogH 法を組合せることで,連星系内で惑星が持つ軌道の長時間かつ正確な安定性評価が可能となった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一般 N 体問題 (GNBP) が持つ任意の軌道を,精度良く数値解法で再現する必要条件は,(a) 全ての保存量を保ち,(b) 平衡解軌道を含む周期軌道を再現することである.さらに GNBP の軌道を長時間にわたり,高精度で計算するには,(c) 陽解法である必要がある.平成 28 年度に,性質 (a), (b) を満たす数値解法として (i) 昨年度に研究代表者が提案した,拘束系向けエネルギー保存差分,全ての性質 (a)--(c) を満たす解法として (ii) Mikkola の可変時間ステップを持つシンプレクティック数値積分法 (LogH) とスケール変換を組み合わせたものを提案した.しかしながら,解法 (i) は陰解法,解法 (ii) はスケール変換のため,計算時間が増大してしまう.そのため解法 (i), (ii) は,数千万--数十億年にわたる系外惑星の軌道進化を計算するのには向かない.
このような状況のため,平成 29 年度は,性質 (a)--(c) の全てを持つ解法を探すか,構成するために時間を割かざる得なくなった.幸い LogH の高次化することで,これら全ての性質 (a)--(c) を高精度で満たすことを示すことができた (論文 Minesaki, Y. 2018, ApJ, 857, 92) ため,LogH の計算結果と Sundman 曲面に基づいた安定性基準とを組合せることで,連星系内で惑星が持つ軌道の長時間かつ正確な安定性評価が可能であることも明らかになった.
しかしながら,高次 LogH を用いた数値計算結果に基づいて,実在する系外惑星の軌道安定性を確定するには至っていない.そのため,進捗状況は「やや遅れている」ものと判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
指定時刻で本研究課題で扱う Sundman 曲面に基づいた安定性基準を惑星が満たせば,その時刻で惑星は必ず安定軌道を持つが,その逆は必ずしも成り立たない.その基準は,指定時刻で惑星が安定軌道を持つための「十分条件」と言い換えることもできる.惑星軌道がこの十分条件を満たすことを確かめるには,連星と惑星が持つ 6 つ全ての軌道要素から,それらの位置・速度を求めなければならない.しかしながら,論文,データベース (Exoplanet.eu) に掲載されている (主星を公転する) S 型系外惑星の軌道要素の数は最大でも 5 つであるため,連星に対する S 型惑星の位置・速度は確定できない.
S 型惑星が伴星から受ける引力のうち,主星と反対方向の成分が最大となるとき,惑星の運動が最も不安定になることを利用すると,与えられた軌道要素の中で S 型惑星の軌道が最も不安定になる位置・速度を確定できる.そのような位置・速度に対しても,Sundman 曲面に基づいた安定性基準が満たされれれば,この軌道要素を持つ惑星の軌道は必ず安定である.実在する S 型惑星の軌道要素に対して,そのような惑星位置・速度を初期値として取り,LogH で得た各時刻での位置・速度が安定性基準を満たすかの評価を行う.
また,実在する単独星とそれを周回する巨大惑星に対して,三角平衡点近傍に様々な質量の仮想惑星 (T 型惑星) を配置し,LogH で仮想惑星の移動範囲を測定する.それによって,T 型惑星が安定軌道を持つための質量・初期条件を確定する.
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Causes of Carryover |
平成 29 年度に受理された論文 (1 編) の掲載費の請求が平成 30 年度になされたこと,及び,平成 29 年度に行う予定であった数値実験が未完成のため,その成果の学会発表・論文投稿がなかったことが,次年度使用額が生じた理由である.為替変動の影響を受け,平成 28 年度に計算機を購入した計算機の価格が,予想と比べて大幅に下落したことも理由として挙げられる.
本報告書を作成している段階では,理論上の障害を克服し数値実験を行える状況となっている.非常に多くの初期パラメータに対して数値実験を行うため,膨大なデータを保存する大容量記憶装置だけでなく,データ紛失防止のための装置を購入する予定である.また,論文掲載,学会発表等の成果発表に関連した費用も請求する予定である.
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Research Products
(1 results)