2016 Fiscal Year Research-status Report
強誘電体臨界点を利用した誘電チューナブル材料による誘電率制御
Project/Area Number |
16K13820
|
Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
岩田 真 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40262886)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
籠宮 功 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40318811)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 強誘電体 / 誘電率 / 誘電チューナビィティー / 電場誘起相転移 / 臨界点 / ペロブスカイト / 酸化物 / 構造相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
バイアスDC電場によって誘電率が変化する材料を誘電チューナブル材料と呼ぶ。物質にDC電場を印加したとき、誘電率の変化の割合を表す量t={ε(0)-ε(Emax)}/ε(0)を誘電チューナビリティーと呼ぶ。ここで、ε(0)とε(Emax)はゼロDC電場下と最大DC電場Emax下の誘電率である。大きなチューナビリティーを示す材料を用いると、バンドパスフィルターの透過周波数を電圧によって制御できる。例えばスマートフォンを考えると、現在使用されている周波数帯は、700 MHzから2.1 GHzであり、周波数比は、約3倍となる。フィルターにLC共振回路を用いると電気容量を約10倍変化させる必要があり、この条件を満たすチューナビリティーはt=90%以上となる。 従来、誘電チューナブル材料には、ヒステリシスループの角型性が小さいソフト強誘電体材料、リラクサーや複合材料(含人工超格子)のような不均一系材料が用いられてきたが、材料探索には指導原理は無く、経験則による研究が進められているのが現状であった。申請者の知る限り、スマートフォンの通信に必要なチューナビリティーt =90%以上の材料は、まだ見つかっていない。 過去に申請者らは、(1-x)Pb(Zn1/3Nb2/3)O3-xPbTiO3 (PZN-xPT)強誘電体混晶の電場誘起相転移に関する基礎的研究の中で、強誘電体の臨界点近傍組成の物質を用いると、大きな誘電率変化を示す誘電チューナブル材料として利用できる可能性を見いだした。これは申請者のオリジナルなアイディアである。この事実は、臨界現象が誘電チューナブル材料として応用可能であることを示している。 本研究の目的は、将来の新しい実用材料の提案を目指して、強誘電体臨界現象を利用する誘電チューナブル材料の基礎を確立することと、その指導原理に従って、高性能新チューナブル材料の探索を行うことである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたように、申請者らが提案したPZN-xPTにおける臨界点近傍の誘電チューナビリティーの問題点は臨界温度が室温よりも著しく高い点にあり、室温近傍で臨界現象が発現する材料を探すことが課題であった。 初年度、本研究では、PZN-PTの臨界点近傍における誘電チューナビリティーの詳細(温度依存性や周波数依存性)を基礎的な立場から明らかにすることと、実際に室温近傍で臨界現象が発現する材料を探索することを目的に研究を進めた。 PZN-PTにおけるチューナビィティーの温度依存性の測定では、大きな誘電チューナビリティーが発現する温度幅や周波数帯域を調べた。その結果、PZN-7%PTにおいて、170oCでt = 93% (最大電場 10 kV/cm)が得られ、90%と80%を越えるチューナビリティーが実現する温度幅は、それぞれ、8Kと21 Kであることを明らかにした。これらの結果は、単結晶バルク試料で測定された結果で、もし薄膜で大きな電場が印加できると、チューナビリティーは更に大きくなると考えられる。 一方、本研究では、室温付近に強誘電性相転移を示すPb(Sc1/2Ta1/2)O3 (PST) 結晶の研究も行った。PSTはペロブスカイト型構造をとり、約14 oCで相転移を起こす強誘電体である。PSTは、Bサイトイオン (ScとTa) の配置によって、秩序型のもの (O-PST)と無秩序型のもの(DO-PST)が存在し、相転移温度での誘電率のピークの値が両者で異なることが知られている。本研究では、PST単結晶を育成して、電気的な測定を行った。実験結果を基にして、電場誘起相転移を明らかにし、誘電チューナビリティーを評価した。その結果、20oCと25oCにおいて、それぞれ、誘電チューナビリティー92%と88%が得られた。 以上の結果から、初年度は概ね研究目標が達成されたと判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
達成度で述べたように、本研究では、PST において、室温付近で大きな誘電チューナビリティーが得られることを実験的に見出すことに成功した。しかしながら、過去に、PSTを誘電チューナブル材料の対象として研究されたことがあまりなかったことから、PSTの電場印加効果等の基礎的物性が調べられていなかった。今後は、基礎的な立場から、PST温度-電場相図を明らかに出来るように、研究を進めて行きたい。 一方、強誘電体の物性は、ランダウ理論で大変良く説明できることが知られているが、このチューナビリティーに関する理論的な研究は、ほとんどなされていない。ランダウ理論を基にした誘電チューナビリティーの研究も進めて行く必要があると考えている。このような基礎的な研究による誘電チューナビリティーの基礎的学理の確立をとおして、新誘電チューナブル材料の探索や既知の材料の更なる高性能化に寄与したい。 その他、室温近傍に強誘電性相転移温度を示す強電体材料に、(Ba1-xSrx)TiO3 や K(Ta1-xNbx)O3 がある。これらの物質の結晶育成と物性評価も今後の課題である。
|
Causes of Carryover |
予定していた消耗品費が予定より少なくて済んだので。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の消耗品費として使用する。
|
Research Products
(11 results)