2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13856
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
上妻 幹旺 東京工業大学, 理学院, 教授 (10302837)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | レーザー冷却 / ユウロピウム / 冷却原子 / 磁気双極子相互作用 / ボース凝縮 / dipolar gas |
Outline of Annual Research Achievements |
大きな磁気モーメントをもつ原子のボース凝縮体は、短距離等方的な s 波散乱相互作用に加え、長距離異方的な磁気双極子相互作用を有しており、後者を通して量子渦と spin texture を伴った新奇な量子相が発現すると期待されている。こうした研究をすすめるには、質量数・磁気モーメントが大きいだけでなく、s 波散乱長が制御できることが肝要となるが、静磁場を用いた Feshbach 共鳴を用いると、スピンの方向が固定されてしまうという問題が発生する。そこで我々は、基底状態に超微細構造を有するユウロピウム(Eu)原子に対して、超微細分裂幅に対応するマイクロ波を照射することで Feshbach 共鳴を誘起し、この問題を解決することを考えた。本研究はランタノイド系の原子種である Eu を、世界で初めてレーザー冷却するとともに、光トラップ中でボース凝縮を生成し、Eu を用いた磁性量子気体研究の礎を構築することを目的としている。 Eu 原子の飽和蒸気圧は極めて低く、オーブンから出射した高速の原子ビームに対してゼーマン減速を施した後、磁気光学トラップを行う必要がある。ところがゼーマン減速を行う際、唯一の候補となる波長 459nm の光学遷移は、基底状態以外の準安定状態に高い確率で緩和してしまうという問題を有する。この問題を解決するため、我々は波長 459nm、513nm のレーザー光を照射することで、原子を積極的に特定の準安定状態に光ポンピングすることを考えた。この準安定状態が有する波長 583nm の閉じた光学遷移を利用することで、準安定状態の Eu 原子に対し、ゼーマン減速、さらに磁気光学トラップを世界で初めて実現することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
Eu の磁気光学トラップを実現するためには、オーブンから出射した原子ビームに対して、ゼーマン減速を施す必要がある。原子ビームを減速するには光子を10万回程度、吸収・放出させる必要があり、全角運動量が J → J+1 の光学遷移の中から適切なものを選定しなければならない。Eu の場合、J→J+1 遷移は合計3つ存在するが、1m 程度の現実的な距離で減速を達成するには MHz 台の自然幅が必要で、この条件を満たすのは波長 459nm の光学遷移のみとなる。本研究を開始した当初、我々は原子ビームを対象とした分光測定をとおし、この光学遷移が 10^-3 もの分枝比を有することを明らかにした。減速に10万回以上の光子吸収・放出が必要なことを考えると、測定された分枝比は、期待する値よりも二桁も大きいことになる。さらに悪いことに、分枝は6つの準安定状態に同程度のオーダーで生じており、原子にレーザーを照射して基底状態に戻すにしても、6つの異なる波長のレーザーを用意し、しかも合計12個の超微細準位に緩和した原子をリパンプしなければならない。この時点で Eu のレーザー冷却を諦めたとしてもおかしくはない状況だったといえる。この問題に対し我々は、「大きな分枝比を逆に利用して、閉じた光学遷移が存在する別の準安定状態に原子を光ポンピングする」という逆転の発想をした。僅か1年間で必要な光源を全て揃え、ゼーマン減速、磁気光学トラップを世界で初めて実現したことは、快挙といっても過言ではないだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終目的である Eu 原子のボース凝縮を実現するためには、1.冷却された原子集団を基底状態に戻す、2.蒸発冷却を行う上で十分な数の原子数を確保する、の2点を達成することが肝要となる。磁気光学トラップに用いている準安定状態は、基底状態から ΔJ=3 も異なる全角運動量をもっており、単純に考えると、少なくとも2波長のレーザーを照射しない限り、基底状態に戻すことはできないことになる。ところが最近の研究を通し我々は、磁気光学トラップを行っている最中に、原子が基底状態から ΔJ=2 だけ離れた別の準安定状態に僅かずつ緩和していることをつきとめた。緩和した原子に波長 1204nm のレーザーを照射すれば、原子を基底状態に戻すことができる。2については、光トラップ中で蒸発冷却を行う場合、10^8 個程度の原子をあらかじめ冷却しておくことが望ましいといえる。現状、準安定状態の Eu 原子を対象とした磁気光学トラップでは、最大で 10^6 個程度の原子しか集まっていない。これは先に述べた別の準安定状態への緩和や非弾性衝突によるもので、原子数を桁で増やすのは容易とはいえない。一方、基底状態に戻された原子についてはこうした緩和を考える必要がないため、自然幅 97kHz の狭線幅光学遷移を使って基底状態でも磁気光学トラップを行うことで、所望する原子数が獲得できると期待している。実際には、真空装置全般をみなおし、ゼーマン減速や磁気光学トラップの効率を上昇させる努力も同時に行うことで目標となる原子数を確保する予定である。その後、波長 1.5μm のレーザーで基底状態の原子を捕捉し蒸発冷却を施すことで、Eu 原子を世界で初めてボース凝縮させることを目指す。
|
Research Products
(7 results)