2016 Fiscal Year Research-status Report
濡れた粉体における穴構造の安定性とカニの巣穴強度理解への応用
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16K13861
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
桂木 洋光 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (30346853)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 慎一 名古屋大学, 博物館, 助教 (30571236)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 粉体物理 / 巣穴 / 生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は濡れた粉体の基礎力学特性を「横穴構造の変形・崩壊の観察」から明らかにすることを目的とした実験系の構築およびデータ取得を行った.まずは標準粉体材料といえるガラスビーズを用いて濡れた粉体層中に横穴構造を形成し,上面より一様荷重を一定の変位速度でかける実験を行った.主な実験パラメータとしては,粉体層の含水率,空隙率,粉体粒子粒径,横穴の初期サイズがあり,それらを系統的に変化させることにより横穴の変形様式を画像計測及び力学データ計測(粉体層の圧縮抵抗力)を通して明らかにすることを目指した.実験系の構築およびキャリブレーションを行った後に系統的データの取得を行った. 実験の結果より,横穴の変形様式が,粉体粒子の粒径および横穴の初期サイズに依存して質的に変化することが新たに分かった.具体的には,粉体粒子粒径もしくは横穴の初期直径がある閾値を超えた場合に,横穴は定速圧縮に対してカタストロフィックな崩壊を経験し,それ以外の場合は横穴が連続的に(徐々に)縮小するということが明らかになった.これらの閾値が砂浜に作られているカニの巣穴の構成粒子のサイズおよび巣穴直径とほぼ一致することより,カニの巣穴はカタストロフィックな崩壊を避けるようにデザインされていることが示唆された.一方で,この縮小・崩壊の相変化は,粉体層の含水率や空隙率にはほとんど依存しないことも実験的に明らかになった.このとことは,実際の海岸の砂浜等でも含水率等は大きく変化する場合もあるが,そのことは巣穴の強度にあまり影響を与えないことを示していると言える. また,フィールド調査で実際のカニの巣穴の型取りなども行った.採取したデータの解析はまだ十分に出来ていないが,上記の実験解析とデータの解釈の目処がつき次第,巣穴の形状解析等も行い,実験結果とフィールド調査結果の統合を目指す.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画に挙げた通りに,今年度は濡れた粉体層中の穴構造の力学的安定性について調べる実験系の開発とデータ取得を行った.特に,横穴の縮小・崩壊様式が実験パラメータに依存して質的に変化することは実験の実施により明らかにされた新たな知見であり,研究は概ね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
まずは,前年度までに得られた実験結果の解釈を進める.必要であれば追加実験も実施する.具体的には,濡れた粉体層中の横穴構造の形状変化と圧縮力の関係から,その強度の計算を行う.モデルとして土木工学で用いられているトンネルにかかる最大せん断応力のモデルを流用する.現在予備的に得られている知見としては,濡れた粉体層を特徴づける強度としては「変形の初期段階を特徴づけるもの」と「変形の最終段階を特徴づけるもの」とに分離して議論する必要があるということが明らかになったことが挙げられる.今後はこの考え方を進めて,穴構造と濡れた粉体層の力学的特徴付けの新たな手法を確立したい.また,ガラスビーズの他に砂を用いた同様の実験の実施および解析を通して,濡れた粉体層の力学的理解を更に進めたい.ここまでの実験的研究により得られた知見および成果は論文としてまとめる予定としている. また,今後はフィールド調査にも力を入れていく.前年度までに取れた物理データの知見を元にして,実際のフィールドでの巣穴の形状やサイズとの比較を通してカニの生態の理解についての議論を可能な限り行いたい.カニの巣穴の形状のフィールドでの現地計測の他,巣穴形状の型取りを行い,その2次元もしくは3次元形状の解析につついても取り組む. 実際にカニを採取して,巣穴を形成する過程や,そこに外力を加えた際の変形の様子等を実際に実験室で確認することにも取り組みたいと考えている. 以上で得られた物理実験の結果とフィールド調査の結果を総合し,濡れた粉体層の力学的特徴づけと砂浜に生息するカニの生態の理解に寄与する知見を得ることが最終目標となる.また,現世のカニにおける巣穴構造と力学特性の解釈を,生痕化石として残る巣穴構造の理解に資する情報として提供し,古環境推定等に何らかの制約条件等を与えることについても可能であれば議論を行ないたい.
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Causes of Carryover |
初年度は実験系の構築およびデータ取得に集中して,成果の発表は想定に比べて少なかった.実験の開発も既存の装置を多く流用することができ,現在実施の部分までは多くの予算を必要とすることはなかった.また,フィールド調査も研究会参加の際にあわせて行ったため旅費も想定以下となった.次年度に一部追加実験を行ない,フィールド調査を充実させる予定であり,今年度が基礎的実験系確立に多くのエフォートが割かれたために次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のように,本年度は追加実験の実施とともにフィールド調査,論文発表を随時行う.また,着実に成果が得られているので,適宜学会等にも参加して,成果の報告にも務める.それらの経費として使用する予定.
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