2017 Fiscal Year Research-status Report
電子線で回転するソフトクリスタル:構造とメカニズム
Project/Area Number |
16K13867
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
多辺 由佳 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (50357480)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉澤 進也 早稲田大学, 理工学術院, 助手 (90732743) [Withdrawn]
坊野 慎治 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (60778356) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電荷移動高秩序液晶 / 自発的な鏡面対称性の破れ / 電子線駆動回転 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、我々が見出した新現象―電子線の透過によりミクロンサイズの電荷移動結晶片が一方向に定速回転する―のオリジンとメカニズムの解明を目指すものである。まず回転方向を決めるキラリティの起源を探るべく、薄膜結晶の詳細な構造を放射光X線回折実験で調べた。結果、直方体形状を持つ2つの分子は長軸に沿って層を成し、層面内では2種が交互配置した矢筈格子を形成していることがわかった。分子自身はアキラルでも、2種が交互配列して矢筈格子をとれば、線形流によって鏡面対称性が破れる。交互配置を示す回折ピークは小さく、相関長は~数十nm程度と示唆された。短い相関長が、試料ごとの回転速度のばらつきの理由と考えられる。次に、トルク発生への分子間電荷移動の役割を調べるため、電荷移動量が異なる様々な分子の組み合わせで試料を作製し、電子線透過時の挙動を調べた。その結果、ドナーとアクセプターの(計算で見積もられる)電荷移動量と平均の回転速度が単調増加の関係にあることが明らかになった。このことから、2種分子間の電荷移動がトルク発生のオリジンになっていることが明確になった。さらに、様々な2種化合物のCryE相で回転を調べる中で、電子線透過で回転するには、高温側に二次元液体相(SmA相)を持つ必要があることが、例外無く確かめられた。この結果は、我々の仮説-SmA相が軸受けとして回転する結晶片を支える―が正しいことを支持する。 以上の実験結果は、ドナー分子とアクセプター分子が作る混合CryE結晶に電子線が透過すると、分子の種類によらず、電子線に沿ったトルクが生じることを示唆する。トルクの大きさは2分子間の電荷移動量と、透過させる電子線強度の両方に対して単調増加する。電荷移動型液晶が新しいタイプの分子集合体モーターとなりうることを明示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画であった、①回転能を持つ混合CryE結晶の分子配列、②2分子間の電荷移動量と回転挙動の関係、③相と回転能との関係、④回転速度と電子線強度の関係、の4つを明らかにできた。具体的には、①放射光X線回折実験で、CryE相の各面内で2種分子が列状に交互に配置して矢筈格子を構成することを確認した。②様々なドナーとアクセプターの組み合わせで電子線による回転の速さの平均値を調べ、HOMOとLUMOのエネルギー差との関係を調べたところ、エネルギー差が小さいほど回転速度が速い、すなわち電荷移動の起きやすさと回転速度が単調増加の関係にあることを明らかにした。③マクロにSmB相である場合でも、局所的にCryE相の領域が残っている場合は、結晶片は回転する。④回転速度は電子線強度に対してほぼ線形に増加する。すなわち、電子線が直接トルクを発生する原動力になっていることが確認された。以上の結果から、自発的な対称性の破れはCryE相の面内交互分子配置によるものであり、トルクは電荷分布に電子線が摂動を与えて生じるという仮説が確実になった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の中で1つだけ実行できなかったのが、単結晶の作製である。今回の実験結果から、分子配置のそろった領域の長さは~数十nm程度と短いことがわかり、試料全体では正負のキラリティを持つ小さなドメインが混在することになるので、トータルのキラリティは非常に小さくなる。にもかかわらず、平均して1秒1回転の回転が見られることから、もし単結晶が作製できれば、桁違いに速い回転が予想される。今後、互いに45度ずれた磁場と電場を試料に同時に印加して、単結晶成長を試みる。 もう一つの挑戦として、電荷移動CryE相の電子状態が電子線により受ける摂動が、どのようにトルクに発展するのかについて、モデルを理論グループとの協力によって構築する。 電子線透過で結晶片を高速回転させ、加えてミクロなトルク発生機構を理論的に示すことができれば、新しいタイプの分子モーターの発展につながる。
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Causes of Carryover |
本研究の要となるソフトマター用の電子顕微鏡が平成29年度に故障し、半年以上にわたって実験が遂行できなかった。電子顕微鏡の修理が完了したので、これから半年かけて、単結晶を用いた実験を行いたい。また平成29年度に助手が異動し、戦力が低下したので、平成30年度は実験補助担当者を雇用し、これを補う。
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