2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K13872
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武尾 実 東京大学, 地震研究所, 教授 (00197279)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 火山 / 数理物理 / 固体地球物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,励起源近傍での観測データに非線形動力学や位相幾何学的なアプローチを適用して,その励起源の力学機構の数理構造を推定する手法を開発し,火山活動を表す他の多項目観測データと併せることで,長周期火山性振動の火山活動における役割が明らかにする.2016年度は火口近傍で観測された微動データから振動の非線形性を検証する方法と励起源の力学機構のシステム次元を制約する手法の開発に取り組んだ.開発の方針は,時間遅れの埋め込み座標系を用いてアトラクタ再構成を行い,埋め込み写像を実現する最小次元と再構成アトラクタの相関次元から力学機構のシステム次元の範囲に関する必要条件を求める方向で進めた.その結果,適切な時間遅れを推定する方法としては高次自己相関係数を用いる方法が,最小埋め込み次元を推定する方法としてはCao[1997]の方法が有効であることを,非線形な火山微動モデルであるJulian[1994]のモデルを使った数値シミュレーションで示した.微動の非線形性の検証にサロゲート解析が有効であることも,同様のシミュレーションで確認した.この手法を2004年浅間山噴火の前に発生した非線形な火山性微動と長周期地震に適用することで,その励起源のシステム次元が3-7の間にあることを明らかにした.さらに,火道浅部が流体回路モデルに類似できることを考慮して,この次元の範囲にあるモデルとしてControl valveに因る流体制御の数理モデルを設定し,シミュレーションを行った結果,非線形な微動も長周期地震も同じ数理モデルで説明可能であること,このようなシグナルは火道の状態が閉塞する方向に変化することで励起されることを明らかにした.この変化は,2004年浅間山噴火の前に観測された地震活動や火山ガス噴出イベントの推移と整合的であり,火山性微動や長周期地震を観測することで火道内の変化を把握できる事を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では,2016年度は,1)観測された振動の非線形性の検証と力学機構の次元推定,2)振動の位相幾何学的分類及び相図による局所的な数理構造の解明への着手,を予定していた.1)の課題では,微動の非線形性の検証にはサロゲート解析が有効であること,力学機構の次元推定のための手法としては時間遅れの埋め込み座標系を用いたアトラクタ再構成による手法が有効であり,適切な時間遅れを推定する方法としては高次自己相関係数を用い,最小埋め込み次元を推定する方法としてはCao[1997]の方法を用いることが妥当であることを,非線形の火山性微動数値モデルを用いたシミュレーションで確認した.このように,1)の課題は当初の研究計画通りに進捗した. さらに,2)の課題と関連して,1)で確立した手法を2004年浅間山噴火の前に山頂火口近傍で観測された非線形な火山性微動と長周期地震に適用して,その励起源の力学機構のシステム次元の範囲を推定し,その次元内に入る数理モデルを構築して,観測データの再現を試みた.その結果,観測された非線形な微動,長周期地震は火道内の閉塞状況の進行という状態変化を示唆していることが明らかとなり,火山性地震や火山ガス噴出イベントの推移とも整合的に説明できることが判った.この成果は,今年度以降予定している観測からの定量化と物理モデルの解明につながるものであると同時に,相図による局所的な数理構造の解明への手がかりとなる成果ともいえる.2)の課題の振動の位相幾何学的分類については,当初予定していたほどには進捗していないが,全体としては,ほぼ,当初の計画通り順調に進捗しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は先ず,昨年度若干進捗が遅れている,2)振動の位相幾何学的分類及び相図による局所的な数理構造の解明,の課題への取り組みを強化する.この課題では,2004年浅間山噴火前の非線形な火山性微動・長周期地震の観測データの他に,2011年霧島火山新燃岳噴火の際に観測されたマグマ湧出期の傾斜変動,マグマ湧出期からブルカノ式噴火期にかけて観測されたハーモニックな火山性微動の観測データの分析から,相図上にどの様な軌道が現れるかを整理・分類し,それが現れる象限に対応した数理構造の分類を進める.また,様々な自励振動を引き起こす発振回路との類似に注目して,これらの数理構造を発振回路の基本である【時定数回路】,【振幅安定回路】,【制御因子回路】の3つに分類して整理を進める.また,マグマ湧出期の傾斜変動については,制御因子を組み込んだ拡張した弛張発信の数理構造で大局的な挙動を再現することに成功しているので,この数理構造に適合する物理モデルの推定にも着手する.2004年浅間山噴火前に発生した非線形な火山性微動・長周期地震については,昨年度までにフォワード的なやり方で一つの局所的な数理モデルが推定されているが,これを観測データから得られる相図の特徴と適合することで,より一般化した数理モデルに発展させる位相的な微分方程式系の構築を目指す. 次年度以降は,制御因子の切り替えによる大域的な振動の相図切り替えの解明を進め,実際に観測された微動・長周期地震,傾斜変動の位相変化,増幅・減衰の特徴から鍵となる制御因子を同定する.さらに,観測データの振幅,周期を説明するために必要となる制御因子の定量的見積もりを行い,火道における様々な物理定数やどの様な物性値を適用すればその制御因子が実現できるかを評価し,より客観的で一意性の高い物理モデルの推定を行う.
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Causes of Carryover |
昨年度は本研究計画に向けて予備的に進めてきた研究を発展させ,本研究計画の進捗に結びつけるため,主に第1の課題である「観測された振動の非線形性の検証と力学機構の次元推定」を中心に研究を進めた.さらに,この研究成果をヨーロッパ(イタリア・ストロンボリ島)で開催される火山性地震のワークショップで発表し,その内容のさらなる進展を目指した.そのため,研究経費の支出としては,ワークショップ参加のための旅費が主なものとなった.一方,これまで進めてきた研究の発展であるため,新たな研究資源への投資にはあまり多額の経費はかからなかった.しかし,今年度以降は,第2,第3の研究課題への着手が予定されており,そのために必要となる新たな研究資源を調達するため,昨年度の支出を節約して今年度以降に回した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究課題2「観測データから位相的な微分方程式系の数理構造を導き出す手法の確立」と研究課題3「観測データを定量的に再現するための方程式系の制御因子の定量化と,物理モデルの構築」を進めるためには,解析用の物品(増設メモリ,ハードディスク等)やデータ解析用ソフト等が新たに必要となるため,主にその経費に充てる.
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Research Products
(1 results)