2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13872
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武尾 実 東京大学, 地震研究所, 教授 (00197279)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 火山 / 数理物理 / 固体地球物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,励起源近傍での観測データに非線形動力学や位相幾何学的なアプローチを適用して,その励起源の力学機構の数理構造を推定する手法を開発し,火山活動を表す他の多項目観測データと併せることで,長周期火山性振動の火山活動における役割が明らかにする.2017年度は,火口近傍で観測された微動から振動現象の位相幾何学的特徴を抽出して分類するために,2011年の霧島山新燃岳噴火の際に発生した調和振動的な特徴を持つ微動の解析を実施し,これらの微動に倍周期分岐の特徴があることを発見した.これらの倍周期分岐は繰り返し発生しており,その相図の軌道は,単一周期軌道から二重周期軌道へと明瞭に遷移している.さらに,霧島新燃岳は2018年3月から噴火を再開しているが,その活動においても一連の微動活動の中で倍周期分岐が発生している事が確認された.これらの観測データを元に,相図上の軌道の特徴の整理を進め,数理構造の検討に着手した.一方,2018年の活動においては,火口近傍の広帯域地震計記録から傾斜変動を抽出することに成功し,周期数十分から2~3時間に亘る鋸波状の非線形な傾斜振動が発生している事を確認し,微動の発生と傾斜変動との関連も明らかにした.また,2011年の噴火活動に伴うマグマ湧出期の傾斜変動を例に,鋸波状の変動を単純な数理構造で表現した数理モデルを構築した.浅間山の非線形微動の検討では,火道浅部を流体回路モデルに類似して構成した数理モデルを,火道内部の一般的な変動を組み込んだ流体制御の数理モデルに発展させる取り組みを開始した.また,2007年10月~2018年1月に亘る約10年間の火山ガス噴出イベントの推移と地震活動・非線形微動活動を整理し,非線形微動の火山活動における位置づけをより明確にして,数理モデルから物理モデルに発展させる際に必要となるデータの取り纏めを進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では,2017年度は,1)振動の位相幾何学的分類,2)相図による局所的な数理構造の解明への着手,3)観測量に基づく制御因子の定量化への着手,を予定していた.1)の課題では,2011年の霧島新燃岳の微動データを再解析して,調和振動的な微動活動に倍周期分岐の現象が発生していることを見いだした.さらに,それらの振動の位相幾何学的特徴を明らかにするために相図を作成し,単一周期軌道から二重周期軌道への遷移の特徴を明らかにした.さらに,2018年3月から始まった新燃岳の噴火活動でも,一連の微動活動で倍周期分岐の現象を確認し,その幾何学的特徴の把握に努めた.その結果,非線形微動の位相幾何学的特徴の分類に新たなデータを付け加えることが出来た.2)の課題では,2011年の霧島新燃岳噴火に伴うマグマ湧出期の鋸波状の傾斜変動について,その相図を分析することにより,最も単純な数理構造をモデル化した数理モデルを構築し,傾斜変動の定性的な再現に成功した.同様な鋸波状の傾斜変動は,2018年3月に再開した霧島山新燃岳噴火での一連の噴火活動の際にも観測された.3)の課題に関連して,2018年の新燃岳噴火に伴う傾斜変動と微動活動の関連についての観測データの整理も行った.さらに,2)の課題に関連して,2016年度に構築して浅間山の非線形微動・長周期地震を再現する数理モデルのより一般な拡張に着手したが,より進化した数理モデルの構築には至っていない.3)の課題に関連する情報を得るためには,非線形微動の火山活動における位置づけをより明確にする必要があるので,浅間山において,2007年10月~2018年1月に亘る約10年間の火山ガス噴出イベントの推移と地震活動・非線形微動活動を整理し,その特徴を明らかにした.以上を纏めると,全体としては,ほぼ,当初の計画通り順調に進捗しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は先ず,昨年度若干進捗が遅れている,2)相図による局所的な数理構造の解明,の課題への取り組みを強化する.この課題では,2004年浅間山噴火前の非線形な火山性微動・長周期地震の観測データの他に,2011年霧島火山新燃岳噴火の際に観測されたマグマ湧出期の傾斜変動,マグマ湧出期からブルカノ式噴火期にかけて観測されたハーモニックな火山性微動の観測データ,さらに2018年3月の霧島山新燃岳噴火の際に観測された傾斜変動,微動データの分析で,既に蓄積された相図上の様々な軌道の特徴について整理・分類し,それが現れる象限に対応した数理構造の分類を進める.また,様々な自励振動を引き起こす発振回路との類似に注目して,これらの数理構造を発振回路の基本である【時定数回路】,【振幅安定回路】,【制御因子回路】の3つに分類して整理を進める.2004年浅間山噴火前に発生した非線形な火山性微動・長周期地震についての局所的数理モデルをより一般的なモデルに発展させ,観測データから得られる相図の特徴と適合することで位相的な微分方程式系の構築を目指す.観測量に基づく制御因子の定量化については,昨年度から引き続き,傾斜変動・微動活動と他の火山活動を示す観測データとの対比をさらに進め,より具体的な物理プロセスの推定に基づいて,制御因子の定量化を図る.さらに,今年度は最終年度となるので,最終的な研究成果の取り纏めを行う.
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Causes of Carryover |
2017年度は,振動現象の位相幾何学的特徴を観測データの再解析及び新たに得られた観測データから抽出して,その特徴を整理・分類することで研究を進めてきた.そのため,解析データを保存するための物件費等の支出が全体としては比重が多くなった.一方,本研究課題を公表して適切な議論が出来る国際ワークショップ等が2017年度は開催されなかったので,旅費等の支出が少なかった.2018年度は,第2,第3の研究課題の解決が予定されており,そのために必要となる新たな研究資源を調達するため,昨年度の支出を節約して今年度以降に回した.特に,研究課題2「観測データから位相的な微分方程式系の数理構造を導き出す手法の確立」と研究課題3「観測データを定量的に再現するための方程式系の制御因子の定量化と,物理モデルの構築」を進めるためには,計算機の能力を高めるための物品(増設メモリ,ハードディスク等)やデータ解析用ソフト等が新たに必要となるため,主にその経費に充てる.
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Research Products
(2 results)