2016 Fiscal Year Research-status Report
漂流ブイによる海上風乱流の直接観測による外洋域の海面抵抗係数と波浪の関係解明
Project/Area Number |
16K13878
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小松 幸生 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (30371834)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 海面抵抗係数 / 海上風乱流 / 波浪 / ブイ式観測システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、直接観測することが困難な沖合域の海上風乱流を高精度に観測する方法を開発して、沖合域の海面抵抗係数を見積もり、海面抵抗係数と波浪との関係を解明することを目的とする。海面抵抗係数は、大気と海洋間の運動量交換を支配する最も重要なパラメータであり、海面境界過程である波浪との関係が長く研究されているが、外洋域の精度の高い現場データが不足していることもあって、確定的な結論は得られていない。本研究課題で海面抵抗係数と波浪との関係が解明されることにより、大気海洋相互作用の理解の進化ならびに海洋大循環モデル、波浪予測モデルの精度向上や地球温暖化影響予測等の精度向上が期待される。 平成28年度は、①漂流ブイ式観測システムの試作、②沿岸域でのシステム検証、を実施した。①については、研究代表者が現在岩手県の大槌湾に係留・運用している海上風・波浪リアルタイムモニタリングブイを参考にして、アルミニウム筐体に3次元変位計測用のGPSアンテナ、バッテリ、3成分超音波風速計、Iridium衛星送受信機、3成分加速度計・角速度計・地磁気計、連続データ同期・記録装置、を組み込んで試作した。②については、上記の試作機を、2016年9月10日~16日に岩手県沿岸域~沖合域で実施した学術研究船「新青丸」研究航海で船尾からロープで係留、浮遊させ、海面直上風と波浪を計測した。この試験運用の期間中に超音波風速計によって計測された風速データからブイの動揺を除去する基盤アルゴリズムを開発し、また、加速度計による波高計測値を計測精度が確定しているGPSによる波高計測値と比較してその精度を検証し、実用に十分耐える精度を有することを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成28年度は、①漂流ブイ式観測システムの試作、②沿岸域でのシステム検証、を実施する計画であり、特に②では、東京大学平塚沖総合実験タワーを利用して、試作中のブイ式観測システムの精度検証を行う予定であった。 ①については、研究代表者が現在岩手県の大槌湾に係留・運用している海上風・波浪リアルタイムモニタリングブイを参考にして、アルミニウム筐体に3次元変位計測用のGPSアンテナ、バッテリ、3成分超音波風速計、Iridium衛星送受信機、3成分加速度計・角速度計・地磁気計、連続データ同期・記録装置、を組み込んで試作した。この試作機を岩手県大槌湾、岩手県沖合において係留し、試験運用を実施して、海上風と波浪を首尾よく計測していることを確認した。 ②については、試作機の精度検証を行う計画にしていた8月下旬に台風が襲来したため、当初予定していた、観測タワー設置の風速計と波高計による比較検証実験が実施できなかった。そのため計画を変更し、2016年9月10日~16日に岩手県沿岸域~沖合域で実施した新青丸研究航海において、試作機を船尾からロープで係留、浮遊させ、海面直上風と波浪を計測した。この試験運用の期間中に超音波風速計によって計測された風速データからブイの動揺の影響を除去する基盤アルゴリズムを開発し、また、加速度計による波高計測値を計測精度が確定しているGPSによる波高計測値と比較してその精度を検証した。加速度計による波浪データのRMSEは、有義波高で0.1m、有義波周期で0.97秒、有義波向で8.0度であり、連続データから計算した2次元スペクトルも顕著な差異は認められなかったことから、試作機のブイに組み込んだ加速度計による波高計測は実用に十分耐えるだけの精度を有することが分かった。以上を総合すると、当初の計画通りに進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、28年度に実施できなかった事項として、東京大学平塚沖総合実験タワーを利用して、渦相関法、分布法、慣性散逸法の3つの方法に加えて、タワーに隣接して28年度に試作開発したブイ式観測システムを係留して海面抵抗係数の同時計測を実施する。4つの方法による海面抵抗係数を比較して、ブイ式観測システムの精度検証を行い、システムの改良を行う。なお、本実験は、28年度の反省を踏まえて、夏期、秋期、冬期と3回の機会を設けて実施することとする。また、沖合では、28年度と同様に、学術研究船新青丸の研究航海「外洋域における海面直上の海上風と波浪の現場観測システムの構築による海面抵抗係数と波浪の関係解明(研究代表者:小松幸生;採択済み)」において、新青丸船尾からロープでブイ式観測システムを係留し、海上風と波浪の同時観測を実施する。この航海では、船上でも同時に渦相関法と分布法により海上風速を計測し、ブイの風速データと比較してブイ式観測システムによる海上風計測の精度検証を行うとともに、風速データからブイの動揺の影響を除去するアルゴリズムの改良を行う。
|
Causes of Carryover |
平成28年8月に東京大学平塚沖総合実験タワーを利用して、試作中のブイ式観測システムの精度検証を実施する予定であったが、台風襲来のため実施がかなわず、支出予定であったタワー使用料や用船代等が浮いたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に予定していた東京大学平塚沖相互実験タワーを利用した観測を、次年度に計画しており、次年度使用額は、その観測に必要な経費(タワー使用料、用船代、係留ロープ等の消耗品費)に充当する。
|