2017 Fiscal Year Research-status Report
海洋大循環における非線形性とノイズ外力のカップリング
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16K13879
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
松浦 知徳 富山大学, 大学院理工学研究部(都市デザイン学), 教授 (10414400)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下川 信也 国立研究開発法人防災科学技術研究所, その他部局等, 総括主任研究員 (40360367)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海洋大循環シミュレーション / 北太平洋亜熱帯循環 / 黒潮-黒潮続流反流 / 長周期変動 / ダブルジャイヤー / 引き込み現象 / 確率共鳴現象 / 黒潮大蛇行 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)単純海洋モデルによる外力応答の数値実験と現象のメカニズムの解明: 海洋ダブルジャイヤーにおけるカオス励起とその確率同期との関係について検討するために,1.5層有効重力準地衡流モデル(Q-Gモデル)を用いた季節変動外力に赤色雑音を付加した数値実験を行った。その結果は,赤色雑音の付加により,赤色雑音がない場合に同期現象が起こるパラメータよりも小さいパラメータ範囲においても同期現象(すなわち,確率同期)が起こることが分かった。また,より大きなパラメータ範囲においては,カオスが励起される方向への遷移が起こることを示した。現在,以上の結果を1.5層海洋におけるカオス励起と確率同期に関する論文として”Chaos excitation and stochastic synchronization in an oceanic double gyre” の題名で,Theor. Appl. Mech. Japan, 64 に受理される見込みである。 (2)北太平洋海洋大循環モデルによる外力応答の数値実験と現象メカニズムの解明: 高解像度北太平洋大循環数値シミュレーションを風応力の強さを① 現実の気候値の強さ,② 0.8倍の強さ,③ 1.2倍の強さの3種類の実験を実施した。その結果,1980年代に集中して行われた流入―流出モデルの結果と同様に,現実に近い設定のモデルでも流量と黒潮蛇行の関係が非線形力学系における解の分岐理論で説明可能なことが示された。 (3)現実の海洋における非線形系特有の秩序形成現象との関係の解明: 2層浅水近似方程式の数値実験結果を参考に,海盆全域で積分した上層と下層の運動エネルギー,および有効ポテンシャルエネルギーの3変数に対する3つの非線形常微分方程式からなるエネルギー収支モデルを作成した。この方程式系は,カタストロフィック理論で知られている楔形カタストロフィーの挙動を示し,黒潮の大蛇行と非蛇行の二様性の理論モデルとして利用できる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,①単純海洋モデルによる外力応答の数値実験と現象のメカニズムの解明,②北太平洋海洋大循環モデルによる外力応答の数値実験と現象メカニズムの解明,③単純モデルと海洋大循環モデル,および観測・同化データの比較,④現実の海洋における非線形系特有の秩序形成現象との関係の解明の4つのサブテーマから構成されている。 ①に関しては,分担者:下川が中心となり,H28年度とH29年度の研究実績で報告したように,ほぼ目標を達成した。外部への成果発表としては,単純化したダブルジャイヤー海洋において,赤色雑音が引き込み現象,確率同期現象にどのように影響しているのかを明らかにし,”Oceanic oscillation phenomena: Relationship with synchronization and stochastic resonance” by S. Shimokawa and T. Matsuura として出版されている。また,”Chaos excitation and stochastic synchronization in an oceanic double gyre” by S. Shimokawa and T. MatsuuraをTheor. Appl. Mech. Japan, 64に投稿中である。 ②に関して,松浦が中心となり,風応力時間一定下での長期シミュレーションを行うことにより,黒潮続流において形成された中規模擾乱がトリガーとなり,傾圧海盆モードを発生させ,海洋独自の長期変動が非線形効果に基づいて発生する可能性が提示された。この結果は,「北太平洋亜熱帯循環系の海洋独自に発生する7年-8年周期変動」として,「海の研究」に出版されている。 ③と④に関しては,①と②の成果を踏まえて,現在実施中である。特に,④の理論モデルに関しては,H29年度の第64回理論応用力学講演会で,「二層海洋における強流域の非線形的挙動」の題名でモデルを提示した。 したがって,H30年度に③と④の項目を完結させる予定であり,研究計画としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度に関してはサブテーマ③単純モデルと海洋大循環モデル,観測・同化データの比較と④現実の海洋における非線形系特有の秩序形成現象との関係の解明を中心に研究を推進する・具体的には, (1)北太平洋亜熱帯循環の長周期の秩序現象(7年-8年および10年変動)がノイズとしての中規模擾乱によって発生していることを,観測結果と同化データ結果から示し,それらのメカニズムを解明する。研究方法は,海底地形(シャツキー海台)を考慮した3層Q-G数値実験を実施し,黒潮続流における傾圧不安定に伴う中規模擾乱の形成・発達過程を定量的に解析する。 (2)これまでの成果を参考に,二層海洋における上層と下層の運動エネルギーおよび,有効位置エネルギーの3変数のエネルギー収支モデルを構築し,互いのエネルギー間のやり取りの違いによって,非線形力学系の解の振る舞いを詳細に調べる。その結果と関連付けて,2015年9月に15年ぶりに発生した大蛇行の発生メカニズムを調べ,予測の可能性について検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)投稿中の論文審査が長引いているため,投稿料と別刷料(20万円)とPC(20万円)購入を既存のPCで間に合わせたため,40万円程度の残額が発生した。
(使用計画)現在執筆中の論文の投稿料と別刷料(20万円)として30年度の執行分として使用、および海外での研究発表の旅費(20万円)に使用する計画である。
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