2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13884
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
伊藤 耕介 琉球大学, 理学部, 助教 (10634123)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 台風 / 波しぶき |
Outline of Annual Research Achievements |
中心気圧や最大風速に代表される台風の強度は、地球科学・自然災害学上、非常に重要な物理量である。しかし、高解像度大気海洋結合シミュレーションモデルでは、猛烈な台風の強度を過小評価する傾向にあることが知られてきた。
多湿な台風状況下では、水滴の蒸発には数十秒~数分間かかるため、中心へ吹き込む流れに波しぶきが数キロほど運ばれながら、徐々に大気を湿らせていくと考えられる。近年の研究により、現実の台風の強度は中心近傍において凝結が起こる位置に非常に鋭敏であり、凝結が通常よりほんの数キロ中心に近いところで起こるだけでも、発達率が大きくなることが分かってきた。しかし、既存のモデルではこの波しぶきの移流の効果を考慮していない。本研究では、この効果が無視されていることが台風強度の過小評価の原因ではないかという仮説を立て、波しぶきの水平移流を考慮できる新たなシステムの開発を試みている。
初年度にあたる平成28年度は、Andreasが提案した波しぶきの粒径時間変化をテーブル化した。具体的には、初期粒径・相対湿度・気圧・気温・海面水温・塩濃度・風速を入力値として、波しぶきの生成量・滞空時間・蒸発時間を出力できるようにした。さらに、これを高解像度大気海洋結合モデルの下端境界に与え、現実の台風状況下での波しぶきの移流が台風の強化を引き起こすことを明らかにした。この初期結果について、気象学会や低気圧と暴風雨に係るワークショップで発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
微物理モデルのテーブル化、それを台風モデルに実装する作業、台風強度のシミュレーションは順調に実行されている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって、波しぶきの水平移流が猛烈な台風をさらに強めるような効果をもっていることが明らかとなった。二年目となる平成29年度は、より計算結果の信頼度を高めるため、アンサンブルシミュレーションを行う。また、台風強度が波しぶきの移流で強くなったことを物理的に説明するため、風速、気温、最大風速半径などとの関連を詳細に調査する。
結果がまとまり次第、気象学会をはじめとする諸学会で成果を報告するとともに、英文誌に研究内容を投稿し、広くアピールすることに努める。
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