2016 Fiscal Year Research-status Report
光励起蛍光(OSL)地質温度計による断層ガウジの到達温度推定
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16K13889
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
鴈澤 好博 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (40161400)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 断層ガウジ / 阿寺断層 / OSL感度変化 / シグナルリセット温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
岐阜県中津川市田瀬に位置する阿寺断層を対象に断層ガウジおよびその基盤岩についてOSLの感度変化を利用した到達温度の推定方法を開発する目的で以下の実験を進めた。 1)源岩石英を用い、室内実験による加熱を行い、OSL感度変化が起こるかどうかの検討、2)野外露頭から採取した岩石中の石英を用いて、OSL感度変化が実際に天然状態で起こっているかどうかの評価。である。その結果、1)断層活動として最も可能性のある温度領域である180-420℃までの加熱実験を行った。その結果、OSL感度は260℃以上で上昇をはじめ、420℃まで連続的な感度変化の上昇が見られた。一方、これとは別にアレニウスプロット作成のための加熱実験を行い、τ値の検討を進めた。その結果、300℃の場合、40秒でOSLシグナルはリセットされることが明らかとなった。また、断層活動で推定されている10秒程度の活動時間の場合、320℃程度でリセットすることが明らかとなった。加熱実験とτ値を比較した場合、両者のOSLシグナルのリセット条件はほぼ一致した。断層活動において、粘土鉱物生成や希土類元素の挙動から推定される到達温度は300-350℃である。OSLシグナルの消失温度はこれに極めて近いため、OSLシグナルの減衰やリセットが断層活動の到達温度推定に極めて有効であることが強く示唆された。 2)についてはガウジ内の石英の感度変化はレイヤーによって異なることが明らかとなった。場ガウジ内での感度変化分布は幅広い値(0.4-1.4)を示し、1)の実験結果に基づくと、加熱を強く受けた石英と受けていない石英が混在することが示唆された。また、特に高い値(1.0-1.4)を示すレイヤーが存在することが示され、このレイヤーがより強い熱を受けたことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中津川市阿寺断層より実験に用いる良好な試料が採取でき、実験に必要な石英も確保できた。OSL装置も光励起部、線源電源の改良、OSL受光感度の向上に加え、動作プログラムの基本設計も変更したことにより、格段の装置の改良を進めることができた。加熱実験では、加熱による感度変化が確実に確認され、断層活動に最も関連すると見られる温度領域での実験に前進を図ることができた。最も重要な実験目的が達成された。また、断層ガウジおよび周辺基盤岩については基礎データが得られた段階で、ガウジで固有のやや高い感度変化が示された点で、一定の成果の達成があったが、いっそうのデータ蓄積が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題として、以下の点が挙げられる。まず、加熱室内実験をさらに精度を上げて行い、加熱による感度変化の傾向を他地点の試料を用いて比較検討する。また、野外試料のうち、ガウジだけでなく接触基盤岩や断層帯から外れた地点での試料を対象に断層周辺を広域に捉えた視点から、これらのOSL感度の状態を明らかにする。これら試料およびOSL測定から断層に伴い発生する摩擦熱や熱水の影響の有無について検討を進める。また、基本問題として、50Ma以上の年代を持つ花崗岩中の石英がどのようなOSLサイトやトラップ状態にあるかの基本問題について検討が必要である。この点を解明するための新たな実験として、1kGyから10kGyオーダーの放射線に対するOSLシグナルの反応を検討する必要がある。この実験のために、高線量のCo照射を計画する予定である。
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Causes of Carryover |
OSL年代測定装置のX線管球用高圧電源の入手および電源関係の改修に時間を要した。この部分は初年度の大きな科研費支出のポイントであったので、目的は達成されたものの、装置の試験的な調整に相当な時間を要した。 したがって、野外での試料採取やアルバイトによる試料調整などの実験の次段階への取り組みにやや遅れが生じている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記で述べたように、今年度は本格的な研究に入ることができるので、阿寺断層への試料採取やボーリングデータの収集など、十分な旅費を確保することで、実験材料の確保を行う予定である。また、院生によるアルバイトなどで、研究補助を確保し、実験のペースをあげることができる。
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