2016 Fiscal Year Research-status Report
セルソーターを用いた次世代花粉化石濃縮法の開発と、放射性炭素年代測定の高精度化
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16K13894
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中川 毅 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (20332190)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大森 貴之 東京大学, 総合研究博物館, 特任研究員 (30748900)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射性炭素 / 年代較正 / セルソーター / 花粉化石 / IntCal / 水月湖 |
Outline of Annual Research Achievements |
水月湖から2006年に採取された年縞堆積物コア、いわゆるSG06のうち、A-16セクションの上部30cmを均質化、花粉抽出実験に用いた。先行研究から、この層準は花粉含有量が高く、かつ年代がおよそ3万5000年前と比較的古い(=バックグラウンドの影響があった場合に検出しやすい)ことが判明していたため、本研究の第一段階としては最適であると判断した。 試行錯誤の結果、酸アルカリ処理をほどこした後、比重1.5より軽いフラクションを重液分離によって回収、さらに目開き40ミクロンのメッシュを通過した分画が、セルソーターに導入するサンプルとして最適であることが分かった。またセルソーターのゲートの設定を様々に変えることで、ほぼ化石花粉のみを含む分画の位置を特定することにも成功した。なお、当初はセルソーターが頻繁に詰まりを起こしていたが、液性を弱アルカリ性にして粒子を拡散させること、また詰まりが発生した場合の対処を完全自動化することに成功したため、装置の長時間にわたる連続運転が可能になった。当初は100万粒の花粉を高純度で回収するのにおよそ20日を要していたが、これらの工夫により、大きな問題がなければ2時間程度で同等の結果が得られるようになった。 次に、年代や堆積物の種類、花粉組成などの点でA-16とは性質の異なるB-08セクションを用いて同様の分析をおこない、抽出の手法が普遍性を持つかどうかを検証した。検証の結果、少なくとも広葉樹については、同じ設定で高純度の化石花粉を抽出できることがわかった。 これらと平行して、100万粒の化石花粉粒子(およそ150μgカーボン)から効率よくグラファイトを生成するための手法を確立した。具体的には、真空ライン全体の堆積、密閉度、触媒の形状などを総合的に見直すことで、収率を90%以上にまで向上、安定して複数回の年代測定をおこなえるようになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、今年度中に水月湖の20数層準のサンプルから化石花粉を抽出し、放射性炭素年代測定を実施する予定であった。だが、セルソーターの詰まりが頻発して時間を浪費したこと、そのため装置に導入するサンプルの濃度を低く抑えざるを得ず、一定時間内で回収できる花粉の数が思ったほど伸びなかったこと、また100万粒の花粉から得られる炭素の量が150μgと微量でああり、信頼のおける年代測定を実施するのに十分なグラファイトを合成できなかったことなどの理由で、昨年度は当初の目標を達成できずに終わった。問題を抜本的に解決するため、低効率の処理でいたずらに時間とサンプルを浪費するかわりに、データを量産する作業をいったん完全に停止し、ルソーターを効率よく用いるための技術開発と、グラファイトを効率よく生成するための技術開発に努力を傾注した。 多岐にわたる装置の効率化と自動化の努力の結果、これらの問題は2016年度の末までにほぼ解決された。のみならず、当初は期待していなかったほどの高効率で処理を遂行することまで可能になった(現時点で、処理の効率は当初のおよそ20倍に達している)。そのため、2017年度は想定以上のペースでデータ生産がおこない、今年度の遅れを取り戻せると期待している。 データ数こそ目標に達しなかったものの、セルソーターを用いた花粉の濃縮と年代測定というアプローチの有用性がほぼ実証され、データを効率よく生産するルーチンまで確立できたことを考慮するなら、データ生産が遅れ気味であることの不安はほぼ相殺され、プロジェクトは「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、水月湖の年縞堆積物コアうち1.2~2万年前に相当する部分から、先行研究(Bronk Ramsey et al. 2012)で年代測定がおこなわれていない層準を40ないし50選んで、セルソーターで花粉を抽出したのち、放射性炭素年代測定を実施する。得られた結果を、主として葉っぱの化石に対しておこなわれた先行研究と比較し、氷期における大気中の放射性炭素濃度が年および季節によってどれくらい変動しているかの検討をおこなう。また、最終的に得られたデータセットを論文などで報告するとともに、放射性炭素年代較正にかかわる国際組織(IntCalグループ)に積極的に情報提供する。平成29年度ではカナダで開催される加速器質量分析研究の国際学会AMS14のIntCal及び年輪年代ワークショップに参加し意見交換を進める。これにより、水月湖データセットがIntCal較正モデルの中で将来にわたって重要な存在感を保つようにする。 技術的な検討項目としては、セルソーターに導入する粒子サイズの上限の見きわめ、モミ・ツガなど大型の花粉が優占する層準において、花粉を物理的に粉砕する方法の検討、セルソーター内部で花粉を輸送するのに用いるシース液を、有機物を含まない生理食塩水で置換することの是非の検討などを実施する。
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Causes of Carryover |
2016年度はサンプルをルーチンで分析することができず、問題解決のための技術開発に大半の労力を傾注した。そのため、当初予定していた人件費および年代測定費用を使うことなく年度を完了した。いっぽう、装置の自動化のために予定よりも多くの物品を購入することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、本年度予定していた20数サンプルの前処理および年代測定のために使用する。
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