2017 Fiscal Year Research-status Report
フォッシルフルイドを用いた上部マントルの流体組成マッピング
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16K13903
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中村 美千彦 東北大学, 理学研究科, 教授 (70260528)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地球深部流体 / 二面角 / 捕獲岩 / 揮発性成分 / 連結度 / MT法 |
Outline of Annual Research Achievements |
捕獲岩は通常、マグマの発生領域~上昇経路にあたる場所のうち、どの部分を代表するのかが不明確である場合が多く、そこから得られる情報は断片的になりがちである。本研究では世界各地の捕獲岩を研究対象としているので、そこに含まれる粒間流体の情報の違いが、真にテクトニックセッティングや広域的な地史の違いによるものなのか、局所的な不均質や短い時間スケールのプロセスの違いに起因するものであるのかを評価する必要がある。そのため、世界のマントル捕獲岩で最も詳しく系統的に、成因や多様性などの岩石学的背景が調べられている、ドイツ西部、Eifel火山群の調査とサンプリングを行い、文献データと併せて、噴出孔(マール)ごとの特徴や、マントル捕獲岩の全体像の中での位置づけが明確なサンプルを100個以上採取することができた。サンプルの記載岩石学的研究により、捕獲岩に残されるフォッシルフルイドの形状から推定される流体組成は、ホストマグマの発生領域の平均的な揮発性成分組成を代表していることが明らかとなった。 さらに、流体組成を求めるために必要な橄欖石―流体間の組織平衡実験を行った。圧力1~4GPa, 温度800~1200 ℃の条件でH2O-NaCl-CO2系流体について実施した。高圧実験自体は終了し、H2O-NaCl系での実験産物について、二面角の測定を終了した。高分解能FE-SEMにより、1つの三重点について1枚の電子顕微鏡写真を高倍率で200枚撮影するという、これまでの研究を精度と数の面において圧倒的に凌駕するデータをとることができた。その結果、NaClが二面角を引き下げる効果を、広い温度圧力範囲において定量的かつ系統的に明らかにすることができた。これは、地殻流体の量や分布を調べるために、近年重視されている、MT法による上部マントルの電気比抵抗観測データの解釈に対しても極めて重要な意義を持つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アイフェル火山で採取した捕獲岩は、現地で直ちに切断し、肉眼鑑定によって、全体のバリエーションを代表すると思われる約20のサンプルについて岩石薄片を作成し、偏光顕微鏡観察を行った。その結果、捕獲岩の多くは、直線的な外形を持ち、表面近傍に、healed crackタイプの流体包有物が特に多数存在することを見出した。これは、マントル捕獲岩が、マグマから分離した過剰圧を持つ深部流体によるhydrofracturing(水圧破砕)メカニズムによって破砕され、マグマに取り込まれたことを示唆する。捕獲岩粒界に含まれる流体は、上昇して減圧発泡したホストマグマから由来している可能性が高いことになる。すなわち、捕獲岩に残されるフォッシルフルイドの形状から推定される流体組成は、ホストマグマの発生領域(部分溶融領域)の平均的な揮発性成分組成を代表していることを、捕獲岩の破砕という新しい火山学的視点から明確にすることができた。 二面角測定高温高圧実験は、流体相が主に存在すると考えられる最上部マントルの条件をほぼ網羅することができた(圧力1~4GPa, 温度800~1200 ℃)。既述のH2O-NaCl系の結果については、既に論文の執筆にとりかかったところである。加えて、H2O-CO2系の実験産物についても、三重点の電子顕微鏡写真をほぼ撮影し終え、画僧処理ソフトによる二面角計測も、50%以上、進展している。 捕獲岩流体の粒間に残されるフォッシルフルイドの形状計測は、従来の視差式3D顕微鏡を用いたデータと、レーザー共焦点顕微鏡を用いたデータが良く一致することが確認でき、さらに高精度の測定ができる環境が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
二面角測定高温高圧実験は、残っているH2O-CO2系、およびH2O-NaCl-CO2系の実験産物の測定を進める。高圧実験中の結晶粒成長に伴い、特定の方位の結晶粒界が卓越している可能性もある。その場合には、二面角測定に際し、ランダムな方位分布を仮定することはできなくなる。そこで、典型的な実験産物について、電子線後方散乱回折法による結晶方位解析を行う。もし結晶格子定向配列が認められた場合には、界面エネルギー異方性を考慮して二面角を記述する。ここまでの解析結果を、投稿論文としてまとめる。これにより、多成分系流体とかんらん石間の二面角が、最上部マントルをカバーする幅広い温度・圧力範囲で高精度に決定されるので、捕獲岩フォッシルフルイドの形状から流体組成を推定することができるようになる。捕獲岩中のフォッシルフルイドの形状測定は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、Eifel火山の捕獲岩を中心にさらに進め、捕獲岩の記載岩石学的なバリエーション(岩相と成因、平衡温度圧力から推定される最終定置環境など)との相関を調べる。さらに、Eifel火山捕獲岩中に多数発見された流体包有物の、そのラマン分光法による直接分析を試みる。流体中の二酸化炭素濃度が求まれば、粒間流体の形状(二面角)から見積もった流体中の二酸化炭素濃度と比較を行うことができるようになる。次に、Eifel火山で得られた結果と、他の産地の捕獲岩についてこれまでに得られた結果を比較し、テクトニックセッティングやマグマ活動の経緯と流体化学組成との関連を議論する。これらの結果をまとめて、投稿論文の作成に入る。
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Causes of Carryover |
高圧実験用の超硬シリンダー・ピストンが、本学既設装置の最大発生圧力付近での長時間使用のため破損する可能性を考慮していたが、海外連携大学において実験を行えたため消耗破損せず、物品費の支出が抑えられた。さらに実験補助謝金を大学運営費交付金から支出することができたため、次年度使用額が生じた。次年度は、通常の実験消耗品に加えて、実験産物の高分解能撮影に長時間使用している電界放出型走査電子顕微鏡のメインテナンス経費の発生が予定されており、その交換部品・工賃などに仕様する。
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