2017 Fiscal Year Research-status Report
光で誘起する電子と核のスピン分極発生現象と革新的なタンパク質水和圏計測法
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16K13926
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
河合 明雄 神奈川大学, 理学部, 教授 (50262259)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電子スピン分極 / 時間分解ESR / キサンテン色素 / 溶媒効果 / ニトロキシドラジカル / ラジカル三重項対 / 三重項消光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、タンパク質など溶媒和圏がその機能にとって重要な分子に対し、溶媒和圏の溶媒分子がどのような物性をもつかを計測する磁気共鳴の新技術開発を目指している。また、これを用いて様々な溶媒和圏分子のNMR計測を行う。特に、開発した方法をタンパク質溶媒和圏の選択的観測に応用し、タンパク質表面の水の性質を解明する。 本研究で開発する新規なNMR観測法では、常磁性種の電子スピン角運動量を光照射によってスピン分極させ、大きな磁化を発生させる。これを利用すれば、磁気共鳴観測の感度が大きく向上する。このようなスピン分極の発生には、研究代表者が長年にわたって研究解明してきたラジカル三重項対機構に基づいた現象を利用する。 初年度は、電子スピン分極発生現象の研究を行った。ニトロキシドラジカルとキサンテン系色素の混合溶液にレーザー照射し、色素三重項のニトロキシドによる緩和過程でニトロキシドに発生する電子スピン分極を計測した。特に興味深い結果として以下の発見があった。ニトロキシドに発生する電子スピン分極の大きさを、パルスESR法で定量的に評価したところ、著しい溶依存性が見出され、溶媒サイズが分極の大きさと相関する可能性が示唆された。 2年目は、分極が小さい場合についての詳細な研究を行った。電子スピン分極を効率的に発生させることは、本研究で開発する実験方法の感度にとって重要である。従って、発生機構を定量的に評価する必要がある。スピン分極が小さい場合を理解することは、分極が大きくなる因子を特定する上で重要と考えて実験を行った。溶媒分子として比較的大きい2メチル2プロパノールを用いた場合、水に比べて3桁ほど分極が小さくなることを見出した。このことより、溶媒分子の大きさが色素三重項とニトロキシドの間の電子交換相互作用の大きさに関与し、これがスピン分極強度に対して決定的な役割を果たすことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、研究代表者の人事異動に伴う装置引越しで、計測に用いるパルスESR分光装置の移転および立ち上げ作業に時間を費やした。そのため、時間分解ESR観測のような代表者にとっては簡便な計測法を実験手段の中心にすえて、電子スピン分極の大きさを決めている溶媒効果についての理解を深める実験を行った。その結果、電子スピン分極は2プロパノールでかなり小さくなり、2メチル2プロパノールではその4分の1にまで低下することが分かった。この解釈として溶媒のサイズが三重項とラジカルの電子交換相互作用の大きさに関係するとしたモデルを考察中である。 本来は、ESR共振器にNMR計測用のコイルを設置して、電子スピンと核スピンの両方の分極を同時計測し、溶媒和圏の溶媒分子を選択的に観測する技術開発を行う予定であった。ESR装置の移動が完了していなかったため、この計測は断念し、研究期間を1年延長することで対処することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
人事異動に伴う現有装置の移動と調整で実験が中断していたが、すべての必要な装置が復旧したため、計測実験を再開する。溶媒和圏を選択的に観測するために、可能な限り大きな電子スピン分極をラジカルに発生させ、これがラジカルに溶媒和した溶媒分子の核スピンに移動する効率を計測する。核スピン分極の大きさを評価するために、ESR共振器内にNMRコイルを設置し、ESRとNMRの同時計測を可能にする改造を行う。キサンテン系色素とニトロキシドラジカルの水溶液にレーザー光を照射し、キサンテン系色素三重項を発生させる。これがニトロキシドで消光される際に電子スピン分極が発生し、これがさらに溶媒分子の水の核スピンにOverhausser効果で移動する。このようにして発生した核スピン分極をNMR計測し、溶媒和した水分子がどの程度核スピン分極するかを評価する。この実験を終えたのち、タンパク質の水和圏計測の実験を行う。アルブミンのようなタンパク質に常磁性クロモファ、すなわちニトロキシドを化学修飾したキサンテン系色素をドープし、この水溶液に対してレーザー照射を行う。常磁性クロモファからタンパク質表面に水和した水分子への分極移動を利用し、タンパク質水和圏の水を選択的にNMR計測する実験を実現する。信号が十分大きければ、NMR信号を利用して水の回転拡散速度を測り、水和圏の水の特徴を考察する。
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Causes of Carryover |
研究期間中の人事異動による研究設備の引越しがあったため、研究を中断する必要が 生じた。そのため研究期間を1年延長した。これに伴い、延長した年度に行う研究のための経費を確保した。おもに化学薬品や計測装置の消耗品、事務や解析作業補助者への謝金、成果の学会発表に用いる旅費などに使用する。
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