2016 Fiscal Year Research-status Report
多核金属錯体の正確なスピン状態計算のための新しいモンテカルロ法の開発
Project/Area Number |
16K13935
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大塚 勇起 北海道大学, 触媒科学研究所, 博士研究員 (70397587)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高精度電子状態計算 / モンテカルロ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
複数の金属を含む錯体(多核金属錯体)の機能は、多数の金属のd軌道へ電子が様々な詰まり方をすることによって、多数の電子状態をとることが可能なことに由来する。電子の詰まり方は、無数に存在するため、このような電子状態を計算することは困難である。Monte Carlo (MC) configuration interaction (CI)法では、ランダムに電子の詰まり方(電子配置)を生成させ、その電子配置が重要ならば計算に含め、そうでないならば捨てるということを繰り返し、重要な電子配置だけを集めることによって、多核金属錯体のような大きく複雑な電子状態を持つ分子の計算を可能にしている。しかしながら、ランダムに電子配置を生成するため、重要ではない電子配置を生成することも多く、重要な電子配置が集めるまでに時間がかかるという問題があった。我々は、電子配置をランダムではなく、摂動論に従って波動関数の補正をサンプリングすることによって生成させ、重要な電子配置が得られる確率を向上させることを提案した。この方法をMonte Carlo correction CI 法(以後MC3I法と略す)と名付けた。本年度は、このMC3I法のプログラムを完成させ、既存のMCCI法と比較することによって、MC3I法の有用性の確認を行った。予測通りに、MC3I法では、重要な電子配置が多く生成され、全ての計算においてMCCI計算よりも早く目的の電子状態が得られた。また、励起状態は、基底状態と同様に高精度に計算されることが解った。研究成果について分子科学討論会にて発表を行い、ここまでの成果をまとめた論文は、海外誌に投稿済みである。金属錯体のテスト計算は、有名なベンチマークであるCr2を用いて行っており、計算条件の設定を行った。平成29年度に完成させる予定であった摂動論のプログラムは、既に完成している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MC3Iプログラムは、計画通り、量子化学プログラムパッケージSMASHを修正することによって完成した。水分子とC2分子を計算したところ、MC3I法は、MCCI法よりも早く重要な電子配置を集めることが可能であり、計算が高速化されることが確認された。また、エネルギーの最も低い基底状態だけではなく、エネルギーの高い電子励起状態の計算でも、MCCI法よりも高速に重要な電子配置を選択できることが解った。さらに、化学反応のモデルとして重要な分子の結合が切れるような構造(結合解離領域)においても、同様に計算速度が加速された。計算労力を減少させるために、重要ではない電子配置を取り除くための閾値を使用しているが、大きな閾値を使用して多数の電子配置を計算から取り除いたとしても、基底状態と励起状態をバランス良く計算可能であるということは、予想以上の結果であった。これらの結果を、分子科学会でのポスター発表で紹介した。また、この時点までの成果について論文を執筆し、海外誌に投稿を済ませた。少ない計算労力でMC3I法の精度を向上させることができる摂動論のプログラムは、当初の予定では、金属錯体のテスト計算をした後に開発する予定であったが、前倒ししてテスト計算をする前に開発を行い、既に完成した。摂動によって補正されたMC3Iエネルギーは、テスト計算では基底状態だけではなく、励起状態でも厳密解とほぼ一致する結果が得られた。金属錯体のテスト計算も開始しており、Cr2のポテンシャル曲線をモデル系として、計算条件を吟味している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、本研究の目的である多核金属錯体の計算を中心に行う。Cr2のテスト計算の結果より、しきい値などの計算条件の設定も目途がついている。さらに、2つの金属を含む計算では、3倍基底など多数の関数で波動関数を展開した場合も、予想したよりも計算量が少ないことも解ってきた。また、計算量を削減させつつ、精度を向上させるため、通常のHartree-Fock軌道ではなく、より金属の分子軌道に近いCASSCF分子軌道も使用可能なMC3Iプログラムを開発済みである。[Mn2O2]2+など2つの金属を含む錯体を計算した後は、含まれる金属の個数を計算機の限界になるまで増やしていく。結果を現在行われているDFTの計算と比較して、多核金属錯体の電子状態を解析したい。 効率的に研究を行うために、MC3Iプログラムの高速化と並列化も同時に行う予定である。1台のコンピューターを使用するMC3I法のプログラムは、既に完成しているので、並列コンピューター(ネットワークで繋がった複数台のコンピューター)で、高速に計算が可能な並列プログラムの開発を行う。さらに高精度な摂動論のプログラムの開発も行う予定である。 また、分子のエネルギーの高い励起状態は、既存の理論では計算が不可能であるが、テスト計算からMC3Iでは、このような高い励起状態の計算も可能であることが解ってきた。多核金属錯体の計算と同時に、このような分子の高いエネルギー状態の計算も行う予定である。
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Research Products
(1 results)