2016 Fiscal Year Research-status Report
光電子エネルギー分布を利用する分光スペクトル測定素子の開発
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16K13937
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山崎 勝義 広島大学, 理学研究科, 教授 (90210385)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分光デバイス / 分光スペクトル / 光電効果 / 光電子エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
光の波長分布(分光スペクトル)を測定する方法として,従来型のプリズムや回折格子による空間的な光の分離ではなく,光電効果におけるエネルギー保存則を利用する分光スペクトル測定を目的として研究・開発を開始した。光検出器の光電面上に設置した格子電極の負電位を掃引して光電子エネルギー分布を測定し,入射光と光電子のエネルギーの間の対応関係を利用して入射光の分光スペクトルを得ることができるコンパクトな光検出器の製作を目的としている。 本年度は初年度の計画に従って,光電効果分光素子の試作,素子への光照射部,および素子からの出力シグナル処理回路の製作を行った。当初,分光素子の基本構造を,光電子増倍管の光電面と第1電極の間に負電位をかけるための格子電極を設置した形とする予定であったが,設計に必要な基本情報を取得するために,光電面材料としてSb-CsおよびSb-Rb-Cs等を有する市販の光電子増倍管を改造し,印加電圧の配分を変化させる動作試験を行った。 試作した分光素子に既知の波長分布をもつ光(低圧水銀灯)を入射し,光電子増倍管用高圧直流電源(自作)を利用して第1電極への印加電圧を変化させ,光電子エネルギーの積分スペクトルを測定した。観測したスペクトルは予想以上にブロードであり,水銀原子の発光線を十分分離して観測できるレベルには至らなかった。しかし,種々の印加電圧での測定の結果,光電子エネルギーの積分スペクトルを分解能よく観測するためには,印加電圧の大きさや組み合わせ方のみでなく電極間相互の距離と角度を適切に調整する必要があることを見出し,次年度の課題として取り組むこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の実施計画に掲げた市販光電子増倍管を改造する光電効果分光素子の試作については当初の予定に従って進めた。また,試作素子への光照射部と出力シグナルの処理回路を含めた試作素子評価システムの製作を完了した。しかし,本研究で製作する分光素子は分光スペクトルそのものではなく,積分されたスペクトルを観測し,その微分から目的とするスペクトルを得ようとするものであるため,わずかな迷光も積分値に誤差として大きく寄与してしまうことが判明し,光照射部の迷光遮断の改善作業に長時間を費やした結果,光電素子自体の細部に関する改善に十分な時間をかけることができなかった。ただし,観測される積分スペクトルの強度と感度が,電極への印加電圧の分割パターンだけでなく,電極間の距離および配向に大きく依存することが判明したことは,次年度に向けた改善ポイントとして有益な収穫点である。また,電極に電圧を印可する高圧直流電源1台での測定では,光電子エネルギーの制御を容易かつ速やかに行うことができないことも判明したので,急遽,電源1台を追加自作し,測定効率の向上を実現した。 研究目的に掲げた「光検出器(光電子増倍管)の光電面上に設置した格子電極の負電位を掃引して光電子エネルギー分布を測定し,入射光と光電子のエネルギーの間の対応関係を利用して入射光の分光スペクトルを得る」という点に関して,現時点では,光電子エネルギー分布の観測に至っていない点をふまえて「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 初年度の試作素子によるデータを参考にしつつ,第1電極上方に光電子エネルギー選別用のメッシュ電極を設置する構造をもつ光電効果分光素子の本格設計および製作を行う。光電面,第1電極,および第2電極からなる光電子エネルギー制御電極のサイズおよび配向の最適条件を電場中での電荷の運動シミュレーションソフトウェアを利用して割り出し,設計・製作に応用する。製作した分光素子を真空排気装置内に設置し,オイルフリードライポンプで背圧排気されるターボ分子ポンプを用いて0.1 μTorr以下に排気するシステムを構築する。 2. 初年度に完全に遂行できなかった水銀原子の発光線の観測を行い,続いて,分子の電子遷移の発光スペクトル測定を行う。交付申請書に記したように,広い波長範囲での測定試験としてはアンモニア(NH3)の紫外光解離で生成するNH2ラジカルのA2B1-X2B1やO2のB3Σu--X3Σg-, S2のB3Σu--X3Σg-およびf1Δu-a1Δg, あるいはSOのB3Σ--X3Σ-などの電子遷移にともなう振動バンド構造の観測を行い,実測データだけから分光スペクトルのピーク強度比が得られることを検証する。また,分光素子のエネルギー分解能のチェックとして,OHのA2Σ+-X2Π, NHのA3Π-X3Σ-およびc1Δ-a1Δ遷移の発光分光スペクトル観測を行い,近接ピークの分離状態から分解能の評価を行う。 3.実測のエネルギー積分スペクトルから波長(あるいは波数)分布スペクトルを得るための解析ソフトウェアを開発・公開し,利用希望者に無償で配付する。得られた成果を,学会,学術雑誌,webサイト上で発表・公表する。
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Research Products
(13 results)