2016 Fiscal Year Research-status Report
ナノ構造体の化学種識別計測を指向した空間位相変調・非線形顕微分光装置の開発
Project/Area Number |
16K13938
|
Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
伴野 元洋 東京理科大学, 理学部第一部化学科, 講師 (40432570)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 超解像顕微分光 / ラマン分光 / 顕微振動分光 / 空間光位相変調 / 波面整形 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,これまでに開発してきた近赤外誘導ラマン顕微鏡に空間光位相変調器を導入し,スポット整形を可能とすることで空間分解能向上を図るための装置開発に従事した。まず,従来の近赤外誘導ラマン顕微鏡で用いる2色の近赤外レーザー光のうち,波長の長い側(ストークス光)の光路上に空間光位相変調器を導入した。続いて,本装置を用いて試料内に集光した焦点におけるスポット形状を制御するため,空間光位相変調器に出力する波面整形パターンを計算するためのプログラムを開発した。反復フーリエ変換法を基に作成したプログラムを開発,活用することで,試料内の焦点において,ストークス光を,目的とする同心円形状に整形することに成功した。このようなスポット形状整形による装置の空間分解能の向上を実験的に見積もるため,ポリマーフィルムの縁付近を対象として,試料位置を掃引しつつ誘導ラマン散乱信号の計測を行った。試料の縁をまたいで試料掃引を行うことで得られた,誘導ラマン散乱信号強度の立下りをモデル関数でフィットすることによって,装置応答関数を見積もった。その結果,空間光位相変調器をオフにし,スポット整形を行わない場合と比較して,空間光位相変調器をオンにし,ストークス光の焦点形状を同心円状に整形した場合,装置応答関数の幅がおよそ15%減少することが分かった。このように,空間光位相変調技術によるスポット整形という方法論が,用いる光の波長や光学素子を変えることなく非線形顕微分光手法の空間分解能を向上させる有用な手段であることを実証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究申請時における初年度の目標であった,誘導ラマン顕微鏡への空間光位相変調器の導入,スポット形状制御用プログラムの開発,試験試料を対象とした空間分解能向上の見積もりの3点について,計画通りに達成した。ただし,当初計画においては空間分解能向上幅をおよそ30%と見込んでいたが,現状では15%に留まっている。本研究遂行の中で,空間分解能向上幅は誘導ラマン散乱信号強度とトレードオフの関係であることを見出した。装置応答関数を見積もるための実験段階においては,装置応答関数をノイズの影響を受けない程度の十分に大きい信号強度で計測し,精度よく装置応答関数を見積もるようにした。より空間分解能向上を重視した設計によって,当初計画した目標値は十分に達成可能と見込んでいる。以上のように,当初目標をほとんど達成したことから「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は,申請段階で計画したように,微細不均一構造を持つ試験試料や実試料に対して,初年度に開発した装置を応用,計測していく予定である。特に,表面に微細構造が加工されたシリコン基板や,表面微細構造によって撥水性を付与されたポリマーフィルムをすでに入手しており,これらの試料を対象とした誘導ラマン散乱信号の計測と,高空間分解能でのイメージングを行っていく予定である。同時に,初年度に構築した反復フーリエ変換法による計算プログラムを改良,応用し,試料由来の信号強度と空間分解能とを同時に最も効率化した空間位相変調パターンを模索し,本方法論の有用性を拡充していく予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度は備品として空間光位相変調器と,その他消耗品,学会発表における経費(1件)に予算を充てた。これらを執行した後に表記残高が残ったが,次年度において光学部品や試料の準備に予算がかかることが想定されるため,次年度の当初計画予算と合わせ,効率的に消化することとした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,研究の推進方策でも述べたように,複数の試験試料や実試料を対象とした計測を行う。また,より効率よく信号を取得するために,劣化した光学部品(ミラーやレンズ)の入れ替えも随時行う。前年度残高は次年度の計画予算と合算し,これら試料や部品の購入に充てる予定である。
|