2016 Fiscal Year Research-status Report
イコサシラドデカヘドランおよび関連化合物の合成、構造、性質
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16K13944
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
久新 荘一郎 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (40195392)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 曲面σ共役 / デカシラヘキサヒドロトリキナセン / ボウル形オリゴシラン |
Outline of Annual Research Achievements |
フラーレン、カーボンナノチューブ、コランニュレン、スマネンなどの曲面π共役化合物の研究は最近のトピックスとして詳細に研究されている。一方、曲面σ共役化合物はこれまで合成例がなく、研究が行われてこなかった。平成28年度はボウル形オリゴシランであるデカシラヘキサヒドロトリキナセンを合成し、その構造と電子的性質を明らかにした。 まず、前駆体であるトリス(1,3-ジブロモ-1,1,2,3,3-ペンタメチル-2-トリシラニル)メチルシランをカリウムグラファイトで還元して、デカシラヘキサヒドロトリキナセンを合成した。この化合物の立体構造には、中心ケイ素原子及び隣接した三つのケイ素原子に置換したメチル基の向きによって四つの可能性がある。29Si NMRスペクトルの実測値とGIAO計算で求めた化学シフトを比較すると、ボウル形構造をもつ立体異性体であることがわかった。また、四つの立体異性体のエネルギーを計算したところ、このボウル形化合物は最も低いエネルギーをもつことがわかった。 この化合物の紫外吸収スペクトルにおける最長波長吸収極大は318 nmに観測され、TD-DFT計算の結果、HOMOからLUMOへの遷移による吸収帯であることがわかった。HOMOはボウルの面内に非局在化したケイ素-ケイ素結合のσ共役軌道であり、LUMOはケイ素-炭素結合のσ*軌道が重なってできた擬π*軌道であり、ボウルの上下に存在する。このようにケイ素骨格をもつ曲面σ共役化合物は曲面π共役化合物とは異なる電子的特徴をもつことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実施計画として、①イコサシラドデカヘドランとボウル形オリゴシランの合成、②曲面σ共役系の電子状態の解明、③ボウル形オリゴシランの構造的特徴の三つの項目を設定した。その中でイコサシラドデカヘドランはまだ合成できていないが、①のボウル形オリゴシランの合成、②、③については充分な結果が得られた。また、その結果はJ. Am. Chem. Soc.に掲載されたが、表紙に採用され、Spotlightsでも紹介されるなど、高い評価が得られた。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はイコサシラドデカヘドランの合成が最大の課題になる。そのためには前駆体のヘキサフェニルデカシラヘキサヒドロトリキナセンの合成が鍵になる。この前駆体の合成はかなり難易度が高いが、その後の研究の展開を考えると、できるだけ収率を落とさずに合成する必要がある。そのためにはWurtz型カップリングの反応条件、特に還元に用いる金属や溶媒の選択が重要と思われる。 もう一つの課題として、デカシラヘキサヒドロトリキナセンのラジカルイオンの生成を行う。特にラジカルアニオンはカリウムによる還元で生成すると考えられ、EPRによって不対電子の分布を解析する予定である。ラジカルアニオンが室温でも安定に存在するようであれば、[2.2.2]クリプタンドなどを用いてカリウムイオンを包接し、ラジカルアニオン塩の単離を試みる。
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Research Products
(6 results)