2016 Fiscal Year Research-status Report
最も曲がった曲面π電子系構造の合成とπ電子・光物性に及ぼす曲面効果の解明
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16K13954
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
安倍 学 広島大学, 理学研究科, 教授 (30273577)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 局面π電子構造 / 量子化学計算 / カルベン / スピン多重度 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルケンは通常平面構造を有しており,その分子平面の垂直方向に拡がるπ軌道は,光エネルギーの吸収・放出,電子授受に関与し,分子・物質の機能発現の源である.近年,フラーレンやカーボンナノチューブに代表される局面π共役電子系を持つ炭素材料が次世代の機能性材料として注目されている.その理由としては,局面π電子系から生まれる特異な電子授受能力と低い励起エネルギーがあげられる.しかしながら,局面π電子系により生まれる電子物性の理解は未熟であり,局面π電子系の効果はよくわかっていない. 本研究では,フラーレンに代表される局面π電子系化合物の一部を切り脱した,これまでにその合成が未到達のビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンに着目した.その歪んだπ電子系化合物の電子物性に関する情報を得ることができれば,局面π電子系の機能発現機構に知ることができる.本研究では,その局面π電子系化合物の合成に際し,シクロブタン-1,3-ジイリデンジカルベンを原料に用いる方法に取り組んだ. 本年度は,まず,シクロブタン-1,3-ジイリデンの可能な3つのスピン状態,一重項,三重項,五重項,に及ぼす置換基効果に関する研究を,CCSD(T)手法を用いて実施した.その結果,電子供与性置換基あるいは電子求引性置換基を導入したいずれの系でも,閉殻の一重項構造(=ビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エン)が最も安定であることを見出した.この計算結果は,確かに,ジカルベンを発生することができれば,ビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンを合成できることを見出した.この研究成果を,Bull. Chem. Soc. Jpnに掲載した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最も小さな局面π電子構造,ビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エンは,これまで,分子内脱離反応で合成が試みられてきたが,その不安定な構造ゆえ,合成が開始されてから50年近く経つが,未だに合成の報告例はない.本研究では,そのπ曲面構造の新たな合成手法として,カルベンの分子内2量化反応を設計し,低温マトリクス状態での最も小さな局面π電子構造の詳細を研究目標としている. 平成28年度の研究において,そのジカルベン種の最安定スピン状態に関する研究を量子化学計算により実施し,ジカルベンを発生することができれば,最も小さな局面π電子構造を構築できることを発見した.その計算化学的な発見を基に,実験研究においてジカルベン種を発生するビスジアゾ化合物の合成を開始した.現在は,アゾ化合物の前駆体となるジケトンの合成に成功しており,概ね順調に研究は進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
実験的にビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エン類縁体の生成と観測を実現するためには,極低温マトリクス条件下でのジカルベンの発生が必要である.そこで,光照射あるいは真空フラッシュ熱分解(FVP)によりクリーンにカルベンを発生できるビスヒドラゾン構造に着目した.ビスジアゾ化合物あるいはビスジアジリン化合物も前駆体の候補であるが,それらは爆発性があり熱的に不安定であるため,それらの使用を避ける.ビスヒドラゾン構造の合成は,市販されているシクロブタノンと既知化合物であるヒドラジンとの縮合反応により実現する. ジカルベン前駆体の合成を実施し,ジカルベンの発生を極低温アルゴン(Ar)マトリクス単離法により確認し,最も曲がったπ電子系化合物の単離に挑戦する.高真空下 (~10-7 mmHg)で気化させたヒドラゾンとアルゴン(Ar)ガスを20K程度に冷却したヨウ化セシウム(CsI)板に蒸着させ,5K程度まで冷却して,蒸着したジアゾ化合物に光照射を行い,ビシクロ[1.1.0]ブト-1(3)-エン誘導体の分光学的な捕捉を実施する.具体的には,HOMO, LUMOの絶対エネルギーを知るため,光電子分光スペクトルを測定する.また,電子吸光・発光スペクトル測定を行い,HOMO-LUMOエネルギー差,電子的励起状態の反応挙動を精査する.さらには,曲面π電子系から生まれる新たな分子間相互作用(Kawase, 有機合成化学協会誌, 2007)を確認するため,例えば,臭素(Br2)などの求電子試剤を加え,C=C二重結合との間に観測される錯体の直接観測を実施する.
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Research Products
(2 results)