2016 Fiscal Year Research-status Report
キラルケイ素ラジカルの立体化学挙動研究と新規不斉合成法への展開
Project/Area Number |
16K13955
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
友岡 克彦 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (70207629)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有機合成化学 / 不斉ケイ素化学 / ラジカル反応 / 不斉合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機化学において炭素ラジカルは極めて重要な反応種であり,膨大な基礎,応用研究がなされている.これに比べて,その同族種であるケイ素ラジカルの基礎研究および合成化学的な応用はごく限られていた.しかしながら,ケイ素ラジカルには炭素ラジカルとは大きく異なる特徴と,それに基づく応用展開が期待される.そこで本研究では,キラルケイ素ラジカルの立体化学挙動(立体化学的安定性)と反応性について精査してその基礎学理を探求するとともに,それを用いた結合生成反応を開発し,多様な分子骨格を有するキラルケイ素分子の創製を目指している.そのために本年度は,主としてキラルケイ素ラジカル前駆体の開発について検討した.そもそも光学活性キラルケイ素分子は天然には存在せず,その不斉合成法もごく限られている.そこで今回,我々は,アキラルなシラシクロペンテンオキシドの不斉非対称化を伴うβ-脱離反応によるシラシクロペンテノール誘導体の不斉合成を試みた.種々検討の結果,アラニン由来の新型リチウムアミドをDBUと組み合わせて用いることで,ケイ素キラリティーを有するさまざまなシラシクロペンテノール誘導体を高エナンチオ選択的(最高> 95% ee)に得ることに,またそれらに更なる官能基を高立体選択的に導入することに成功した.本研究ではまた,先に開発した手法によって光学活性シラノールを不斉合成し,その変換によってキラルヒドロシランを調製し,これから生じるケイ素ラジカルが立体特異的に反応することを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キラルケイ素ラジカルを立体化学が規定されたケイ素活性種として応用するためには,当該ラジカルを効率的に調製することが,また,その立体化学的安定性と反応性を立体構造や分子軌道の混成状態,電荷分布などから精密に理解することが,さらには,その立体化学的安定性と反応性に適したラジカル反応を設計することが求められる.これらの問題を解決するために,本年度はまず,キラルケイ素ラジカル前駆体の開発について種々検討した.その結果,アキラルなシラシクロペンテンオキシドの不斉非対称化を伴うβ-脱離反応がシラシクロペンテノール誘導体を高エナンチオ選択的(最高> 95% ee)に与えることを,またそれらに対する更なる官能基化が高立体選択的に進行することを明らかにした.本法と先に開発したシラノール不斉合成法を使い分けることで多様なキラルケイ素ラジカル前駆体を入手できる.本研究ではまた,光学活性シラノールの変換によってキラルヒドロシランを調製し,これから生じるキラルケイ素ラジカルを立体特異的に反応させることに成功した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 1.キラルケイ素ラジカルの立体化学挙動研究,2.キラルケイ素ラジカルによる立体選択的結合生成反応の開発,を行い,キラルケイ素ラジカルの化学を確立するとともに,キラル生理活性天然物の炭素不斉をケイ素不斉に置き換えた新規キラルケイ素分子の創製と応用について検討する予定である. まず1.に関して,H28年度に開発したラジカル前駆体を用いて各種ケイ素ラジカルの立体化学的安定性を実験的に解明する.より具体的には,検査反応としてラジカル型塩素化反応を用いて,反応濃度と生成物の光学純度の相関を解析し,ケイ素上の置換基の電子的性質と立体的性質がキラルケイ素ラジカルの立体化学的安定性に及ぼす効果を精査する.さらにまた,DFT計算を用いたNBO(自然結合軌道)解析によってケイ素上の置換基がケイ素ラジカルの軌道混成様式に及ぼす影響について系統的に解析し,先の実験結果との相関を明らかにする計画である. それらの結果に基づき, 2-1. キラルケイ素ラジカルの分子間付加反応の開発,2-2. キラルケイ素ラジカルの環化反応の開発を検討する.すなわち,本研究でその調製法を確立したキラルケイ素ラジカルをアルキンやアルケンに付加させることによって,ラジカル反応による立体選択的なケイ素―炭素結合生成反応を開発する.さらに,分子内にアルケン,アルキンを有するキラルケイ素ラジカル前駆体を調製して,その不斉ラジカル環化反応について検討する.また,ラジカル環化反応が連続的に進行する基質を設計し,従来法では合成困難な多環式キラルケイ素化合物の合成法の開発を目指す.
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Causes of Carryover |
当初の予定よりも試薬,反応溶媒の使用量が少なかったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては,より多様な反応を検討するために試薬,反応溶媒の使用量の増大が予定される.
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Research Products
(8 results)