2017 Fiscal Year Research-status Report
不斉超空間の精密設計と機能化:予測可能な分子吸着型不斉反応
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16K13959
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩谷 光彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60187333)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超分子錯体 / 多孔性金属錯体 / 不斉吸着・認識・反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、天然酵素の機能発現原理を範とし、らせん型超分子金属錯体の自己集積により得られる多孔性キラル結晶が形成する、「不斉超空間」がもたらす基質の特異性と位置および面選択的分子吸着特性を最大限に生かした、近接効果と配向効果に基づくエネルギー低減型の高選択的不斉誘導法を確立することを目的とした。また、X線その場観察法を分子吸着、反応解析等に活用し、分子の動的挙動を明らかにする方法を開発することを目指した。 平成29年度は、異なる複数の基質をチャネル内の特定の位置に配置し、酵素様活性中心の構築を目指した。L-アミノ酸からなる様々なキラルペプチド誘導体の取り込みや吸着を新たに検討した結果、2種類の誘導体をお互いに近接するように位置選択的に配置させ、2種類の官能基の近接・配向化、およびそれらによる水分子の捕捉に成功した。この結果は、これらの基質がチャネルの表面に結合するときの吸着部位の構造が、様々な基質のアンカー部位として利用できることを示しており、今後の基質の分子設計において重要な指針を与えるものである。現在、この知見に基づいて、2分子反応および反応過程のその場観察を検討している。 平成28年度に見出した、基質サイズ特異的酸触媒反応やバルクでは起こらない光化学的オレフィン移動反応については、理論計算、X線回折法による電子密度解析、同位体標識した基質を用いた反応解析の結果に基づき、反応活性種や反応経路を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いた多孔性超分子金属錯体は、環状三核パラジウム錯体が集積したことにより形成したチャネル表面を持つため、チャネル内部に露出した環状錯体由来の内孔(チャネル側部)や、環状錯体間の隙間(チャネル底部)が主な基質部位であった。ところが、今回のペプチド誘導体は、多点水素結合でチャネル上部の親水部分に安定に結合することが新たに判明した。この結果は、その直接結合に関わる部分構造は様々な基質をこの位置に選択的に固定するためのアンカーになり、異なる複数の基質をチャネル内に配列する際に、配列設計を一段と容易にする。 また、バルクでは[2+2]付加環化反応が定量的に進行する基質分子が、上記のチャネル内ではオレフィン移動反応のみが進行する。様々な基質を検討した結果、末端オレフィンを持つチャネル内に取り込まれる基質は、すべてオレフィン異性体に変換され、この現象の一般性が確認された。さらに、理論計算、X線回折法による電子密度解析、同位体標識した基質を用いた反応解析の結果より、チャネル表面のパラジウム中心が触媒となり、光化学的オレフィン移動反応が起こることが強く示唆された。 上記の二つの結果は、当初予想していなかったものであり、本研究に用いた多孔性超分子金属錯体のチャネル空間の新たな機能性を与えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の点に焦点を合わせて研究を推進する。 (1)基質の近接・配向効果に基づく高選択的不斉反応:鏡像体対になっているチャネル内の基質結合ポケットの一方のみに光学活性なキラル分子を結合させてキラルな環境を構築し、もう一方のポケットにはプロキラルな分子を面選択的に結合させ、面選択的な2分子反応により高選択的不斉反応を行う。また、同様の条件下で、プロキラルな分子の分子内反応によりキラルな分子を生成するアプローチも行う。 (2)高性能キラル分離・精製:基質のサイズ特異性、チャネル表面吸着の位置選択性や吸着力の差を利用したラセミ体の分割を行う。 (3)不斉超空間の精密構造解析とその場観察:最近、基質のサイズや形に依存して、多孔性結晶中のチャネル構造が不均一になることを見出した。この現象を、チャネル毎に異なる基質選択性を持つ多孔性結晶の構築に展開する。また、基質の吸着や会合過程、不斉反応中間体などのその場観察を行い、吸着現象や反応過程のメカニズムを解明する。 (4)コア・シェル型の多孔性キラル結晶の構築:パラジウム中心に結合するハロゲン配位子が、異なる多孔性結晶がコア・シェル型結晶を生成し、それぞれのチャネルが異なる基質親和性を持つことを見出した。これらはほぼ同じ結晶パラメーターを持つため、両方のチャネルが連結した構造を取る。これを利用して、複数の異なる反応が連続的に起こる反応場の構築に応用する。
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Causes of Carryover |
平成29年8月に、パラジウム中心に結合するハロゲン配位子が異なる多孔性結晶がコア・シェル型結晶を生成し、それぞれのチャネルが異なる基質親和性を持つことを見出した。これらはほぼ同じ結晶パラメーターを持つため、両方のチャネルが連結した構造を取ることも証明された。この現象は当初予想していなかったが、これを利用することにより、複数の異なる反応が連続的に起こる反応場を構築できる可能性が出てきた。また、光学活性な基質分子を取り込ませることにより、異なるキラル環境をチャネル内に配列できることが期待された。平成30年度も上記に関する研究を継続し、本研究をさらに発展させることとした。 物品費として、光学活性化合物を含む誌薬・溶媒類(40万2394円)、HPLC関連消耗品(20万円)、ガラス器具類(10万円)、研究成果発表のための海外旅費として30万円を計上する。
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