2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13963
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊東 忍 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30184659)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 単核銅錯体 / 活性酸素錯体 / オキシラジカル錯体 / 酸化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
① 配位子および銅錯体の合成とキャラクテリゼーション 一般的に、単核の銅-活性酸素種は、もう一分子の銅(I)錯体と反応し、容易に二核化することが知られている。これを抑制するためには、立体的に嵩高い置換基を導入して銅錯体同士の二分子反応を抑えて単核銅-活性酸素錯体を安定化する必要がある。また、銅錯体は一般的に二価の状態が最も安定であり、過酸化物などとの反応による酸化数の変化や、それに伴う配位構造の変化が、錯体の安定性に大きく影響を及ぼす。そのような問題に対処するためには、配位原子のドナー性のチューニングや立体構造の柔軟性が要求される。このような観点から、本研究では、Tren (tris(2-aminoethyl)amine)の基本骨格に、2,2'',6,6''-tetraisopropyl-[1,1':3',1''-terphenyl] (TIPT)のような嵩高い置換基を導入したボウル型四座配位子を合成した。この配位子は、金属結合部位近傍には小分子を取り込む為に必要な空間を持つが、その回りは嵩高い疎水性の置換基覆われているため、分子間反応が抑制され、単核構造を安定化できる。一方、tren部位のエチレン架橋は比較的柔軟構造を有しているために銅中心の酸化還元に伴う構造変化に対応できる。また、TIPT置換基にはレドックス活性なアニリン部位が存在し、窒素から銅への電子ドナー性をチューニング可能である。 研究の初年度は、配位子および銅(I)および銅(II)錯体の合成を行い、結晶構造、各種分光学的特性(核磁気共鳴スペクトル、電子スピン共鳴スペクトル、紫外-可視-近赤外吸収スペクトルなど)、磁気的特性、および酸化還元挙動について検討し、錯体の基礎的なデータを収集した。特に、アニリンの置換基や、外部軸配位子が錯体の立体構造や酸化還元挙動に及ぼす影響について綿密に検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、新規配位子の合成とそれを用いた銅(I)および銅(II)錯体の合成、さらに得られた銅錯体の構造と各種分光学的特性を明らかにし、目的とする単核オキシラジカル錯体の調製と反応性に関する研究の準備が調った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、これまで殆ど検討されてこなかった銅(I)錯体の有機過酸化物(H2O2、ROOH、RC(O)OOHなど)との反応について検討を行う。この場合、過酸化物の酸素-酸素結合の不均等開裂(heterolysis)が誘発され、単核銅(II)オキシラジカル種が生成すると期待される。 申請者らは既に予備的な実験として、単純な四座配位子(tpa = tris(pyridylmethyl)amine)を用いて銅(I)錯体とROOHとの反応について検討し、過酸化物の酸素-酸素結合の不均等開裂(heterolysis)が起こることを確認している。しかし、このような単純な配位子系では、容易にもう一分子の銅(I)錯体と反応して二核銅(II)錯体となってしまうため、目的とする単核銅(II)オキシラジカル種を観測することはできなかった(S. Itoh, et al. Eur. J. Inorg. Chem. 2012, 4099)。そこで、本研究で新しく設計したボウル型の配位子を用いれば、二分子反応が抑えられ目的とする単核銅(II)オキシラジカル種の生成を観測できると考えた。 以上の様な作業仮説に基づいて、初年度に合成した銅(I)錯体とH2O2、ROOH、RC(O)OOHなどとの反応について、低温紫外吸収スペクトル、低温共鳴ラマンスペクトル、低温エレクトロスプレー質量分析などを駆使して追跡し、生成する中間体のキャラクタリゼーションを行う。その際、溶媒、対イオン、酸や塩基の添加効果、過酸化物の種類、配位子の置換基効果(R = H, Me)などについて系統的に検討する。 目的とする単核銅(II)オキシラジカル種が捉えられた場合には、各種外部基質との反応について速度論的に検討を加え、その反応性の詳細を明らかにする。
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Research Products
(6 results)