2016 Fiscal Year Research-status Report
分子探針を用いた電気伝導度計測によるグルコース単分子検出法の開発
Project/Area Number |
16K14018
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
西野 智昭 東京工業大学, 理学院, 准教授 (80372415)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 分子探針 / 単分子接合 / グルコース / 分子認識 / 走査トンネル顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
糖尿病の患者数は,潜在患者を含めると国内だけでも2,050万人にも達し,食生活などの生活環境の変化に伴い今後益々の増加が予想され,グルコースの高感度検出法の開発が喫緊の課題である. 申請者らはこれまで,走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針を機能性有機分子で化学修飾した探針(分子探針)を創案し,単分子に対する種々の新規分析法を開発してきた.ごく最近,分子探針を用いた,単分子-単分子間に生起する電子移動の直接検出法を開発した.また申請者は,単分子の電子移動,すなわち電気伝導度は,その分子構造に依存することに着目し,伝導度計測に基づき単分子検出が達成できる可能性を着想した.本研究では,これをさらに発展させ,グルコースの単分子検出法を開発することを目的とする. グルコースなどの糖と可逆的に結合を形成できる分子探針を開発した.溶液中にて糖レセプターの認識サイトとして広く用いられているフェニルボロン酸に着目し,そのチオール誘導体(4-メルカプトフェニルボロン酸,MPBA)を探針分子として用いた.試料として,グルコースにリンカーを介してチオール基を導入した誘導体をモデル分子として用い,これをAu基板に吸着させてトンネル電流測定を行った.電流-移動距離曲線を測定しところ,MPBA分子探針がグルコース部位と錯形成を生じ,これによって単分子検出が達成できることをみいだした.すなわち,MPBA分子探針を試料上の任意の位置で静止させた後,試料表面の数Å程度のごく近傍まで近接させる.その後,探針を鉛直上方に引き上げ,探針-試料間の距離を増加させながらトンネル電流を計測した.MPBA分子探針とグルコース部位とが錯体を形成すると,これにより単一分子接合が生じ,分子探針の下地金属探針とAu基板とが架橋されるため,トンネル電流が増加した.これを指標として単分子検出を達成した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の通り,グルコースにリンカーを介してチオール基を導入したモデル系において計画したとおりの計測手法によって,グルコースの単分子検出が可能であることが実証された.本成果は,交付申請書に記載した計画に則って得られたものである.予定していた研究実施計画に沿って順調に成果が得られていることから概ね順調に進展していると評価できる.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度で得られた知見に立脚し,誘導体化を施さない天然のグルコースに対する単分子検出法を開発する.すなわち,上記と同様にMPBA分子探針を用いるとともに,基板もMPBAを用い同様に修飾する.グルコースを含む溶液中にてMPBA分子探針とMPBA修飾Au基板を近接させ,探針を鉛直上方に引き上げ,探針-試料間の距離を増加させながらトンネル電流を計測する.これにより,溶液中でよく知られているように,分子探針および修飾基板のMPBA 2分子とグルコースとからサンドイッチ型1:2錯体が形成されると考えられる.その結果,この錯体が単一分接合を成すため,探針と基板とが架橋されることによるトンネル電流上昇が観測される.従って,グルコースの単分子検出が達成できる.ガラクトース,フルクトースなど他の糖の存在下でも同様に測定を行い,グルコースに対する選択性を評価する.上記のようなフェニルボロン酸と糖との1:2錯体は,種々の単糖のうち,グルコース選択的に形成されることが溶液中の測定から知られている.従って,本法においてもこの選択的な錯形成に基づき,優れた選択性が獲得できるものと考えられる.以上によりグルコースを選択的に,かつ単分子感度で検出できる手法を開発する.本法の原理は,マイクロ流体デバイスなど他の分析システムに組み込むことが容易であり,社会的要請の非常に高い小型非侵襲型血糖測定器の実現につながる.
|
Causes of Carryover |
測定方法の工夫により消耗品費の大きな割合を占めるAuの材料費を抑えることができたため.
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降はその方法が使えないため,Auの材料費に充てる.
|
Research Products
(18 results)