2017 Fiscal Year Research-status Report
水素結合および金属配位結合により対合する人工塩基対を用いたDNA鎖交換反応の開発
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16K14029
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹澤 悠典 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (70508598)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | DNA / 人工DNA / 金属錯体型塩基対 / DNA鎖交換反応 / 金属錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)天然核酸塩基と水素結合を介したワトソン-クリック型塩基対を形成し、かつ、金属イオン存在下では配位結合により対合して金属錯体型非天然塩基対を形成する「ヤヌス型人工核酸塩基」の創製、および (2)「水素結合型天然塩基対」と「金属錯体型人工塩基対」との間の可逆な変換に基づくDNAの鎖交換反応の開発を目的としている。 今年度は新たな「ヤヌス型人工核酸塩基」として、チミンの5位メチル基をカルボキシ基に置換した5-カルボキシウラシル(caU)を選択し、その塩基対形成能の評価を行った。その結果、caU塩基はアデニン(A)塩基と水素結合型塩基対caU-Aを形成する一方で、Cu(II)イオンやGd(III)イオン等の金属イオン存在下では金属錯体型塩基対caU-M-caU (M = Cu(II), Gd(III)など) を形成することを見出した。さらに、caU塩基を含むDNA二重鎖の熱的安定性について、以下の知見を得た。 (1) 3対のcaU-caU塩基対を導入したDNA二重鎖は、3当量のCu(II)イオンの添加により、融解温度が約30度上昇した。CDスペクトルを用いた滴定実験、および質量分析測定から、3対の金属錯体型塩基対(caU-Cu(II)-caU)が定量的に形成したためと考えられる。また、Gd(III)イオンでも、同様の二重鎖安定化が見られた。 (2) 3対の水素結合型caU-A塩基対を導入したDNA二重鎖は、3当量のCu(II)イオンもしくはGd(III)イオンの添加により、融解温度が約2~6度下がることがわかった。 以上より、caU塩基を導入したDNA二重鎖の熱的安定性が、金属イオンにより制御できることが示された。この結果は、caU塩基が金属配位をトリガーとしたDNA鎖交換反応に適した「ヤヌス型人工核酸塩基」であることを示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水素結合型天然塩基対と金属錯体型人工塩基対との間の可逆な変換に基づくDNA鎖交換反応の実現を目指し、本年度は主に新規「ヤヌス型人工核酸塩基」の設計・合成を進めた。種々の5位修飾ピリミジンヌクレオシドを合成し、金属錯体形成挙動を評価したところ、5-カルボキシウラシル(caU)がCu(II)イオン等を介した金属錯体型塩基対形成に適していることがわかった。 そこで、5-カルボキシウラシル(caU)塩基を導入したDNA鎖を合成し、DNA二重鎖内でのcaUの塩基対形成を評価した。その結果、caU塩基がCu(II)イオンやGd(III)イオンを介した金属錯体型塩基対(caU-Cu(II)/Gd(III)-caU)を形成することがわかった。さらに、金属イオンの添加により、caU塩基を導入したDNA二重鎖の熱的安定性を制御できることも示された。 以上のように、新たにデザインした「ヤヌス型人工核酸塩基」である5-カルボキシウラシル(caU)が、水素結合型塩基対caU-A塩基対および金属錯体型塩基対caU-Cu(II)/Gd(III)-caUを形成することを見出した。先に開発した5-ヒドロキシウラシル(UOH)塩基と合わせて、金属イオンを外部刺激とするDNA鎖交換反応への応用が可能であり、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、5-カルボキシウラシル(caU)塩基を導入したDNA鎖を用いて、Cu(II)イオンやGd(III)イオンとの錯体形成による二重鎖の安定性制御が可能であることを示した。来年度は、caU塩基の水素結合型塩基対(caU-A)および金属錯体型塩基対(caU-Cu(II)-caU、もしくはcaU-Gd(III)-caU)の相互変換に基づくDNA鎖交換反応の詳細な検討を行う。 また、昨年度より検討を続けている5-ヒドロキシウラシル(UOH)塩基を用いたDNA鎖交換反応についても、より効率的な鎖交換反応の実現を目指し、DNA配列の系統的な検討や反応条件の最適化を行う。特に、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)等を用いた鎖交換反応の定量評価や速度論解析を行い、鎖交換反応のメカニズムを考察する。 さらに、開発した鎖交換反応の応用として、金属錯体形成を駆動力とするデオキシリボザイムなど機能性核酸の構造・機能スイッチングの実現も目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は、当初予定した5-ヒドロキシウラシル(UOH)塩基を用いた鎖交換反応の検討に加え、5-カルボキシウラシル(caU)塩基も水素結合型および金属錯体型塩基対を形成することを見出した。caU塩基の金属錯体形成に基づくDNA二重鎖の安定性制御ができることを見出したため、研究目的をより精緻に達成するために研究期間を延長し、caU塩基を用いた鎖交換反応の解析を次年度に行うことにした。そのため、DNA合成試薬や蛍光標識DNA鎖など、予定した試薬の一部を次年度に購入することになった。 次年度は引き続き、5-ヒドロキシウラシル(UOH)塩基や5-カルボキシウラシル(caU)塩基を導入した人工DNA鎖の合成に必要な有機合成試薬・DNA合成試薬・各種器具を購入する。さらに鎖交換反応の解析に必要な電気泳動実験用の試薬や、蛍光修飾DNA鎖の受託合成に使用する。また、国内学会および国際学会における成果発表のための旅費としても使用する予定である。
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