2017 Fiscal Year Research-status Report
ヘムタンパク質集積体を用いた新規光捕集系の構築と物質変換触媒への応用
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16K14036
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 高史 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20222226)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 人工光合成 / 光捕集 / ヘムタンパク質 / 補因子 / 色素 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内では、多種多様な生体分子が規則的自己集積を経てユニークな組織体を形成し、得られた集合体によってはじめて導かれる機能を発現している例が数多く見られる。たとえば、一つの例として植物の光合成組織の光捕集系(LH1, LH2)があげられる。このタンパク質の構造には、多数の色素が規則正しく配置され、光エネルギーを高効率に獲得していることが知られている。本研究では、光合成初期過程の光捕集を行うアンテナ組織(LH1, LH2)を模倣することをめざしている。具体的には我々のグループでこれまでの科学研究費補助金の支援を受けて精力的に実施しているヘムタンパク質人工集積化技術を活かして、色素をタンパク質マトリクス内に環状に配置した人工光捕集デバイスの構築に着手している。さらに、タンパク質集積体の金属基板への修飾、タンパク質中心空孔への金属錯体導入により、化学エネルギーへの変換と触媒反応への応用を図り、水素発生や水の酸化をつかさどる人工光合成系の創出を最終目標としている。 平成29年度は、引き続きHTHPと呼ばれるヘムタンパク質6量体を用いて、天然のヘムを除去したアポタンパク質に亜鉛ポルフィリンあるいは亜鉛クロリンを挿入した再構成タンパク質を調製し、その光物性を評価することによって、HTHP6量体タンパク質内での、エネルギー移動の挙動を検証した。さらに、このHTHPタンパク質の表面に、2種類の吸収波長の異なる色素をそれぞれ修飾し、幅広い波長の光を吸収する系を構築し、色素間の光駆動型エネルギー移動を確認した。さらに、光駆動型エネルギーを効率よく集めるために、HTHP(hexameric tyrosine-coordinated heme protein)の集積化にも挑戦している。今後これらのモデルを用いて、光捕集系を有する効率的な光触媒構築への展開が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、前年度と同様にHTHPタンパク質に着目し、HTHPのタンパク質表面のアミノ酸残基の変異導入を試み、T12C, D18C, K29Cを調製した。さらにHTHPの補因子であるヘムを除去したアポタンパク質に、亜鉛ポルフィリンを挿入した再構成タンパク質(ZnHTHP)の調製を実施した。次に、導入したシステイン残基に対して、マレイミド基を側鎖に有するフルオレセイン及びTexas Red色素を共有結合を介して修飾した。次にFlu-ZnHTHPの場合にはフルオレセインの吸収領域である460 nmの光照射によるフルオレセインから亜鉛ポルフィリンへのエネルギー移動を、Tex-ZnHTHPの場合には亜鉛ポルフィリンの吸収領域である421 nmの光照射によるTexas Redへのエネルギー移動を、蛍光スペクトルおよび蛍光寿命解析を用いて、その効率を算出した。 次に、ZnHTHPの6つのタンパク質ユニットの5つのユニットに対してフルオレセインを、1つのユニットにTexas Redを修飾した複合体(Flu-Tex-ZnHTHP)を構築し、3種類の色素間のナノ秒オーダーのエネルギー移動を詳細に分析することを試みた。エネルギー移動は、最終的にTexas Redの615 nm での発光を観測し、各色素間のエネルギー移動の速度から移動経路を見積もった。その結果、フルオレセインからTexas Redへの直接のエネルギー移動と、亜鉛ポルフィリンを経由するエネルギー移動の2つの経路が約2:3で存在し、最終的にZnHTHP表面に1/6で存在するTexas Redにエネルギーが到達することが明らかとなった。 以上の結果から、HTHPをScaffoldとする可視領域の光捕集モデルを構築し、HTHPに装着した3種類の色素間での光駆動型エネルギー移動の観測と、速度論的解析を実施可能な系を提案した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、6量体として存在するHTHPをScaffoldとして、6分子の亜鉛ポルフィリンと計6分子のタンパク質表面上の色素間でのエネルギー移動を捉えることが可能となった。今後の研究としてはこれまでの知見を活かし、主に2つの方策を検討している。 (1)現在はHTHPの6量体を単独で用い、その光化学挙動を観測している。今後はこのHTHPそのものの集積化をめざし、最終的には色素含有HTHPの巨大クラスターを構築し、植物の光合成と同様に、光を効率よく捕集する大規模系の獲得をめざす。既に、HTHPをカラム(直線)状に集積する系の構築には着手しているが、今後は、基板上に二次元にHTHPが広がった系の構築にも挑戦する。 (2)光捕集の次の段階として、得られたエネルギーを用いた物質変換を目標とする。具体的にはHTHPの中心の空隙に金属錯体を導入し、光駆動型の触媒反応への応用を図る。たとえば、簡単な系として、cobaloximeを共有結合でHTHPの空孔に導入し、効率的に捕集した光エネルギーを利用して、金属錯体(触媒)を介した物質変換(水素発生や水の酸化等)を試み、光駆動型の触媒反応への応用に挑戦する。一部は既に着手しているが、錯体のHTHP中心空隙への修飾が難航しているため、条件検討や修飾位置の検討を重ねて、HTHPに色素と錯体の両方が安定に配置した人工光合成系の構築をめざしたい。 以上によって、光エネルギーを化学エネルギーに変換する、総合的な人工酵素モデルが構築できるものと期待している。
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Causes of Carryover |
計画当初、平成29年度に実施する予定であった光化学測定に必要なレーザーの準備や必要とする試薬の調達の遅れと条件検討の難航等で、次年度に持ち越す実験項目が発生した。したがって、それらの物品、試薬等の経費や、またこれらによって得られる成果の発表のための学会・国際会議出張や論文の添削費用に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)