2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14073
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石原 一彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (90193341)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ポリマーブラシ表面 / 防汚・耐着氷特性 / 水和 / 水素結合ネットワーク形成 / 不凍水層 |
Outline of Annual Research Achievements |
材料表面に簡便に100-300nmオーダーの厚みでポリマーブラシ層を構築する方法の確立を行なった。金属やポリマー塗装面に“完全クリーン表面”を作り出す手法として、原子移動ラジカル重合(ATRP)開始基から、アルカリ金属イオンを対イオンとするカルボキシレート基を有するモノマーを重合した。まず、表面への開始基の固定反応を以下の2通りを検討した。すなわち、(a)カテコール基が結合されたポリアミンにATRP開始基を導入したプライマーを合成する。(b)光反応で表面と直接結合するATRP開始基を合成する。(b)法では、金属表面の場合、予めシランカップリング剤にて有機分子層を表面に生成させる必要があるが、(a)法では、カテコール基と金属酸化物との直接反応が可能である。これらで前処理した基材を、通常のATRP重合あるいは電子移動により活性基が再生する原子移動ラジカル重合(Activators Re-Generated by Electron Transfer Atom Transfer Polymerization, ARGET ATRP)を適用して、ポリマーブラシ層を作製した。その際にポリマーブラシ層の厚さが、流体潤滑するために必要な100-300nmになるような条件を見いだすことに焦点を当てて実施した。アルカリ金属イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオンを選択し、これを対カチオンとするカルボキシレートモノマーをからなるポリマーブラシ構造の物理構造を、X-線光電子分光、顕微多重反射赤外分光、液中エリプソメトリー、および界面近傍の透過型電子顕微鏡観察により解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
基板からの重合反応に関しては、問題なく進んでおり、各種ポリマーブラシ層をある程度の厚みで合成することができた。さらに表面の解析により、これらが水和構造を撮る際の特性に関する情報を得ることができた。予備実験にて凍結状態を作らせた際の着氷に関しても、分析する方法を確立してきており、来年度の特性評価への足がかりはできてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
氷の接着力(着氷力)を実測するためには「引張り付着強度」や「せん断付着強度」を直接測定することが第一であると考えられるが、表面の凹凸などにも大きく影響が出るために、着氷力を規定するパラメーターを考えて、これにより評価することが良い。一般的には、材料に対する水の接触角(表面自由エネルギー)と氷のせん断付着強度が比例関係になることが知られている。しかしながら、これは2-5 kg/cm2程度の力が作用する場合であり、本研究のようにより低い値には適用できない。そこで、氷が動き出す力に関するパラメーターを提案する。不凍水が存在し、その上に氷が存在すると、流体潤滑機構で氷が運動すると考えられ。そこで、摩擦線速度を変化させて摩擦係数を測定することで、着氷力の評価を行う。 さらに、湿潤状態を可逆的に繰り返し変化させて、摩擦係数の変化を捉え、耐久性試験を実施する。この際に試験基材表面の状態を、項目(2)を利用して観察しながら、耐久性に与える効果的な表面構造に関する知見を得る。 これらの研究成果を集積して、界面における水の構造に摂動を与えることを新概念提示とする“完全クリーン表面”創製と、これを利用した革新的な新素材の創出に結実したい。
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Causes of Carryover |
一定の湿潤状態を担保し、ポリマーブラシ層中に存在する水分子の構造につぃての解析を行う予定であったが、示差走査熱測定、顕微多重反射赤外分光による2次元マッピング、パルスNMR測定が、研究室の移動に伴う装置のメンテナンスの都合で遅延したため、これらの実験を次年度に集中して行うため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の項目に関しては、装置のメンテナンスが終了していることから、次年度は滞りなく実施できる。処理した基材の示差走査熱測定により凍結水量と不凍水量を測定する。不凍水量が多くなるようなポリマーブラシ層のポリマー鎖密度を決定する。また、ポリマー鎖と水分子との相互作用に関して、水の水素結合に由来する特定吸収を顕微多重反射赤外分光により2次元マッピングし、基材に存在する水の状態、分布状態を確定する。次いで、パルスNMRを利用した緩和時間測定を実施し、水分子に由来するスピン格子緩和時間(T2)の測定と温度依存性の解析から、不凍水中の水の運動性に関する情報を得る。
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