2016 Fiscal Year Research-status Report
ペプチドの構造異性体に着目した非分解性の安全な抗菌性高分子材料の創製
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16K14083
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
網代 広治 奈良先端科学技術大学院大学, 研究推進機構, 特任准教授 (50437331)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高分子材料合成 / ペプチド構造異性体 / 抗菌性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究課題のアイディアは、ペプチド構造異性体の原料となるN-ビニルアミドの新しい合成経路の考案であった。申請者は既にパルミトイルクロリドを用いて相当する化合物の単離に成功していた。ポリ(NVF)およびポリ(NVA)の側鎖加水分解の知見を基にすると、NVFまたはNVAを出発物質としてアシル化合物との反応を利用すれば、N-ビニルアミド骨格を有するペプチドの構造異性体を合成できる、という考えに基づいて研究を実施した。 ペプチドの構造異性体をN-ビニルアミド骨格で構築できれば、高分子骨格は加水分解を受けて分解することなく、安定な高分子構造を得ることができる。しかも、側鎖が加水分解されても有害な低分子アミン化合物を放出することがない。したがって安全で長期間にわたる生理活性化合物となり得る。 N-ビニルアミド骨格を有する合成高分子を用いて、生理活性の発現にチャレンジすることが研究の概要である。特に、ペプチドの有する様々な生理活性のうち抗菌性に着目した。抗菌性ペプチドは、疎水性、親水性、およびカチオン性のアミノ酸が配列した構造に由来することが知られている。したがって、ペプチド異性体前駆体のビニルモノマー群を重合し、その一次構造および高次構造を制御することによって、天然の抗菌性ペプチドに類似する機能を、合成高分子によって達成すると期待される。このように、超安定、無害な抗菌性高分子材料の構築に挑戦する内容である。 新しい合成法に基づき、モノマーレベルで新規化合物を合成した。これを共重合体の調製に用い、導入されるカチオン性の量をある程度制御することが可能だった。これら得られたカチオン性含有N-ビニルアミド、特にペプチド構造異性体について、抗菌性を評価するために、種々の異なる条件から高分子合成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ペプチドの構造異性体であるN-ビニルアミド誘導体について、一連の新しいモノマーを新しい手法によって合成し、これらの共重合体の生理活性について検討することを目的としていた。特に生理活性のうち、抗菌性に着目し、これを達成するためにカチオン性を導入した共重合体を調製し、この生体材料としての機能を評価することが目的であった。 親水性および疎水性を制御するために設計した置換基をN-ビニルホルムアミド(NVF)のN-位に導入した新規モノマーを合成した。さらにこれを用いてNVFやN-メチルーN-ビニルアセトアミド(MNVA)との共重合体を合成すると、その親水疎水性バランスが温度によって変化した。この共重合体の水溶液について濁度を測定すると感熱応答性を示すことが分かった。新しい共重合体の両親媒性材料として今後使用が期待できる(特許出願準備中) さらに、本研究で提案した合成手法により新規N-ビニルアミド誘導体を合成した。例えば、ベンゾイルクロリドを用いて、NVFのホルミル基との交換反応によってフェニル基を導入した。これをモノマーとして、NVFとの共重合体を調製した。NVFの割合を10%程度導入した共重合体について、メタノールー水酸化ナトリウム水溶液により加水分解率を時間で制御した高分子サンプルを5種類程度調製した。したがって、導入されたカチオン性を制御できたペプチド構造異性体の調製を達成した。(学会発表申込済)
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Strategy for Future Research Activity |
1年目から得られたモノマーと共重合体を使って、抗菌性を評価するためのサンプルを調製する。まず薄膜を調製する。薄膜の表面特性を、接触角、タンパク質吸着や依頼分析による抗菌性評価や細胞接着によって、性能を評価する。この抗菌性および生体適合性を基にして、さらに適切な共重合体合成の設計指針とする。具体的には、細胞毒性の高いものに対しては、疎水性モノマーとカチオン性部位との比率を疎水性成分が多くなるように変化させて共重合体を合成させる。また、抗菌性が低いものに対しては、NVFの含有量を増やしてさらに加水分解率を上げることでカチオン性の導入量を増加させる。 当初予定していたRAFT重合による高分子構造制御に加えて、末端反応性置換基を導入したN-ビニルアミド誘導体を合成する。例えばラジカル開始剤にカルボン酸含有のものや、ポリエチレングリコールを含有するものを利用することを検討する。これらの手法により高分子の一次構造制御や高次構造制御を容易に達成することを目指す。 1年目で組成比を固定した共重合体を調製したが、ナノ構造体調製や抗菌性の性能の結果を受けて、親水成分、疎水成分、およびカチオン成分の組成比を再検討する。必要に応じて共重合体の組成比、一次構造、および高次構造を改良した高分子材料を調製し、再度抗菌力測定を行う。 最後に抗菌性以外にも、今後同様の手法で生理活性を発現する材料開発分野を拓くことを目的として、本研究課題におけるモノマー合成および高分子構造制御の成果を整理して一般化する。
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Causes of Carryover |
研究を遂行する上で、特許申請が必要となってきており、学会発表を来年度へ繰り越したために、旅費を次年度使用扱いとしたことが一つの理由である。また、新規モノマー合成について、1年目で複数種類を合成する予定であったが、初年度は共重合体の構造を特に最適化することを優先したため、2年目とその内容を交換する結果となり、次年度に新たに新規モノマーを合成する必要が生じた。 したがって、翌年度分として請求した助成金と合わせて、当初の研究計画の内容通り実施するため、全て次年度に使用する予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
モノマー合成の試薬として1年目に予定していた分を次年度に流用する。また、成果の学会発表のための旅費についても次年度に使用する。その結果、2年間の合計額は当初の予定通り執行予定である。
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