2016 Fiscal Year Research-status Report
有機-無機ハイブリッド化を経由するシングルレイヤーゼオライトの合成
Project/Area Number |
16K14096
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
山本 勝俊 北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (60343042)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有機-無機ハイブリッド / 層状シリケート / ゼオライト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、研究代表者らがすでに報告している有機-無機ハイブリッド型多孔体KCS-2の合成手法を発展させ、容易に剥離可能な薄膜状ゼオライトを開発することを目的としている。平成28年度は、研究計画に従い、末端型有機シランからの結晶性層状シリケート材料の合成について集中的に検討した。 まずフェニルトリエトキシシランをケイ素源として用い、その結晶化を試みた。合成温度や原料混合比などの条件を変化させた合成を網羅的に行うことにより、結晶性物質を得ることに成功した。この物質(以下、KCS-5とする)の結晶化には低いH2O/Si比が有利であり、合成温度やOH/Si比、Al/Si比に最適値が存在することを明らかにした。この知見を活かしながら、異なる有機基を持つ末端型有機シランについても検討し、シクロヘキシル基や、n-ヘキシル基などの直鎖アルキル基を持つ有機シランからも層状構造を持つと思われる結晶性アルミノシリケート物質を得ることに成功した。ベンゼン環を持たない有機シランからも結晶性物質が得られ、さらに直鎖アルキルシランを用いた場合には炭素鎖が長い有機シランからの生成物が大きな層間距離を持つことが示唆されていることから、研究計画時に想定した、脂質二重層類似構造体を経由するスキームにより結晶化したと考えられる。 得られた物質について元素分析を行うとともに、熱重量分析で構造安定性を、窒素吸着測定により表面積や細孔容積を、ベンゼン吸着測定により有機分子に対する親和性をそれぞれ評価した。KCS-2のような12員環大細孔を持つと思われるものはこれまでに得られていないが、すべての物質で有機分子に対する高い親和性が見られており、ベンゼンに対する飽和吸着量はKCS-2のそれを超えるものであった。また、KCS-5の構造はフェニル基が燃焼する500℃程度まで安定に保持されることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である「薄膜化されたゼオライト」の開発のためには、末端型有機シランからの三次元構造体の結晶化というに高いハードルを超えなければならなかったが、様々な合成条件を変化させた合成を網羅的に行うことにより、平成28年度の目標である結晶性物質の合成に成功した。さらにそれにとどまらず、様々な有機シランから結晶性物質を得ることに成功している。これまでにKCS-2のような大きな細孔を持つと思われるものは得られていないが、有機分子に対する高い親和性は明らかになっており、その高い構造安定性とあわせ、材料としての今後の開発が期待できる。また実験結果は、研究計画時に想定していたとおりの「加水分解したケイ素源が有機基を内包する形で脂質二重層類似構造体を形成し、親水部でアルミノシリケート層が結晶化する」という生成スキームを支持しており、本研究の見通しの確かさも示された。 層状シリケートである粘土鉱物の結晶構造決定は一般に困難だとされている。本研究での合成のターゲットとなる有機―無機ハイブリッド型層状シリケートについても未知構造の決定は難しいと想定され、そのため生成物の結晶構造解析は本研究の達成目標には含めていなかった。しかしKCS-5についてはその結晶構造が研究協力者により決定され、KCS-5はSOD型ゼオライトを構成するアルミノシリケート層が積層し、層間にフェニル基が突き出たような構造をとっていることが明らかになった。この構造は本研究が最終目標とするシングルレイヤーゼオライトの積層体そのものであり、このことは平成28年度の材料合成が最終目標の直前まで進捗していることを示すとともに、今後の検討によるユニットセルレベルで薄膜化されたゼオライトの開発を期待させるものである。 以上のことから、本研究では研究計画時の想定を超えた進捗が見られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の材料合成は計画どおり順調に進んだため、平成29年度も研究計画に沿って、2つのアプローチで新規材料の開発を進める。1つめのアプローチでは、ゼオライト合成によく用いられるstructure-directing agent(SDA)の利用を検討する。有機4級アンモニウムなどのSDAはゼオライト構造の多様化に大きな役割を果たしてきた。そこで本研究でも様々なSDAを合成に用い、多様な構造のシリケート層の形成を試みる。もう1つのアプローチとしてヘテロ金属種の導入を試みる。ゼオライトの合成では、ケイ素以外の金属種、すなわちヘテロ金属種の導入が結晶構造にバリエーションを与える因子であることが知られている。そこで、ゼオライトで特異な構造ユニットを与えることが知られている亜鉛やゲルマニウム、粘土鉱物に含まれるマグネシウムなどをアルミニウムの代わりに用い、多様な結晶構造の形成を狙う。これらの合成においても、温度や原料混合比などを変化させながら、合成条件の探索、最適化を行う。 すでにKCS-5において示されたように、得られた材料はゼオライト様のアルミノシリケート層が有機基を層間にはさみながら積層した構造とると考えられる。そこで平成29年度の研究では、そのシリケート層の剥離も試みる。これらの材料のシリケート層どうしの相互作用は共有結合などに比べ弱く、比較的容易に層剥離できると考えられる。例えば、ヘキサンやトルエンなどの有機溶媒中に分散させ、超音波処理するなどして層剥離を試みる。処理後の分散媒を基板上にコーティングし、原子間力顕微鏡で観察するなどして、シングルレイヤーへの剥離を確かめる。
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Research Products
(2 results)