2016 Fiscal Year Research-status Report
周波数変調方式液中原子間力顕微鏡によるその場観測:鉛蓄電池の充電特性の飛躍的改善
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16K14099
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
木村 宗弘 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (20242456)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平井 信充 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50294020)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 鉛蓄電池 / 原子間力顕微鏡 / 電気化学 / リグリン / 周波数変調方式 / 参照電極 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉛電極表面での電気化学反応(EC)の高感度・原子レベルでのin-situ測定を行う事を目指して、周波数変調方式-強酸液中原子間力顕微鏡(EC-FM-AFM)を構築した。まず、本実験遂行に必要な強酸液中AFM用カンチレバーホルダーの設計に必要な要件を洗い出す予備実験を4ヵ月に亘り実施した。この予備実験を通して、参照電極には水銀ではなくカドミウム線を用いても問題ないことを確認した。更に、機構の制約を加味しながらAFM用カンチレバーホルダーを設計すると共に、溶液セル(小型シャーレ)への3つの電極の配置方法を検討した。サイクリックボルタンメトリーを繰り返し実験し、ECを行いながら電気的干渉なしにAFM観測が出来る電極配置を決定し、シャーレーは今後自作することに決定した。こうした予備実験を元に設計した特注カンチレバーホルダーが2月に納品された。その間、手持ちのカンチレバーホルダーを用いて、5%硫酸環境でのダイナミックモードEC-AFM観測を行い、これまで平井らが発表していた鉛電極表面での酸化還元反応中でのAFM観測の再現実験を行った。これらの結果から、硫酸濃度が薄い場合に硫酸鉛の結晶が大きくなる傾向などを再確認できた。次に、納品されたカンチレバーホルダーでのEC-AFMを実施し、ダイナミックモード観測でではあるが当初の期待通りの観測が行えることを確認した。飽和溶媒和でのFMモードでのAFM観測の予備実験は水を用いて行っており、29年度より希硫酸での実験に着手する環境を整えることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PH=-1の希硫酸環境でもAFM測定が繰り返して行えるような溶液セルを設計・製作した。設計に必要な環境データを得るために、元々所持していた液中AFM用溶液セル(構造的に中性・有機用であり強酸には耐えられない)を用いて、濃度が5%未満の硫酸を使い、電気化学(EC)-AFMの予備実験を行った。ダイナミックモードによる予備的観測には成功し、酸化還元反応による硫酸鉛の凝集/離脱の挙動を連続的に観測することが出来た。この予備実験のポイントは、次の2つである。(1)一般にECには参照電極として水銀を用いるが、AFMの複雑な機構の中に設置する溶液セルに水銀参照電極を設置することは難しいと考え、カドミウム線を用いることにして予めサイクリックボルタモグラムを取得し、カドミウムを参照電極としても本研究の目的から問題は生じないと判断した。(2)希硫酸の表面張力、カンチレバーおよびカンチレバーの励振機構が希硫酸に浸かってしまう事、電極の設置位置および配線の取り回しがAFM測定に影響しないか、など多くの予備実験を重ねた上で、FM-AFM用溶液セルを設計することとなった。その結果、既製品の溶液用カンチレバーホルダーを島津製作所に再設計して貰い、溶液ホルダーおよびEC用配線の入る空間を設けて貰った。我々も、液中AFM用溶液ホルダーに、工夫を凝らした。陰極はシート状にして溶液ホルダーの底面に敷き、溶液ホルダーの側面から陽極及び参照電極を入れるようにした。ここで、電極間の干渉が発生し、解決に時間を要してしまった。更に、AFMカンチレバーに当てるレーザー光の光路となる石英板と溶液ホルダーの機械的干渉の解決も必要であった。以上の問題点について、さまざまな試行実験を繰り返した結果、2月に希硫酸用溶液セルの特注品が完成した。3月に(1+3)硫酸によるダイナミックモードEC-AFM観測を行うことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
鉛蓄電池のほぼ同じ環境(希硫酸:PH=-1)におけるEC-AFM実験を遂行する。サイクリックボルタンメトリーを実施しながら、各電位状態における鉛電極表面の原子レベルでのトポロジーを得る。充放電を繰り返し硫酸銅が付着する(サルフェーション)問題の発生メカニズムを原子レベルで解明する。サイクル数・電圧勾配・環境(希硫酸濃度・温度)などを変えることで表面に付着する硫酸鉛の形成/離脱の様子をnmスケールで観測する。続いて、リグニンを添加することによってサルフェーションが抑制されるメカニズムを、原子レベルで解明する。同様に、サイクル数・電圧勾配・環境(希硫酸濃度・温度)およびリグニンの種類を変えることで、表面に付着する硫酸鉛の形成/離脱の様子をnmスケールで観測する。これらの結果から、リグニンがサルフェーション抑制に寄与しているメカニズムを明らかにする。現時点での予測は、リグニンが硫酸鉛のグレインの間に挟まり、充放電時の電子の移動に必要なバイパスを確保していると想定しており、リグニンの構造を変えることでバイパスの形状も変わると予想している。これらの予測に基づいて、分子量や分子骨格の異なるリグニンを用いて、EC-FM-AFMを行いながら充放電挙動を観測することも計画している。我々の予測が正しければ、鉛蓄電池の充電効率の低さは鉛電極の有効電極表面積を下げないように工夫することで改善できると考えられるため、自然界に存在するリグニンだけではなく、鉛蓄電池用リグニンについても提言が行えるであろう。
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Research Products
(3 results)