2016 Fiscal Year Research-status Report
大気圧プラズマと高周波誘導加熱を利用したチタン合金の超短時間窒化プロセスの開発
Project/Area Number |
16K14121
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小茂鳥 潤 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (30225586)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
曙 紘之 広島大学, 工学研究院, 助教 (50447215)
菊池 将一 神戸大学, 工学研究科, 助教 (80581579)
森田 辰郎 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 教授 (90239658)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 大気圧プラズマ / 高周波誘導加熱 / チタン合金 / 超短時間窒化プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
航空宇宙分野や医療分野をはじめとして多くの産業分野で幅広く実用化されているチタン合金の最大の弱点は,耐摩耗性に劣るという点がある.これを完全するために,硬質薄膜の被覆や窒化処理等の表面処理が施されるが,炉内での加熱を伴うため,素材の結晶粒が粗大化し,その結果として母材強度の低下を招くという難点がある.とくに疲労強度を対象とした場合には,大幅な低下を招くため,実用的観点から問題視されている. 当該申請は,この点に着目し,チタン合金の性能を改善させることを目的として実施しているものである.具体的には,現在は長時間を要する窒化処理を,高周波誘導加熱の効果とプラズマの効果を利用して,窒素ガスブローするのみで超短時間(具体的には数分オーダー)で表面を窒化する新しい処理プロセスの構築を目指している. 初年度は,提案するガスブローIH窒化に関する基本的な知見を得ることを目的として実施した.その結果,高周波誘導により900℃に加熱したチタンに180秒間窒素ガスをブローすることで,通常のガス窒化(850℃,5時間の処理)と同等の窒素化合物層と窒素拡散層が形成されることを明らかにしている.詳細は後述するが,窒化のメカニズムについても詳細な検討を行い,今後の研究のための基礎的な知見を多く得ることができたい.その成果は1件の雑誌論文(原著,査読付き)および5件の学会発表として公開されている. なお,当該年度は,別途研究室内で構築した微粒子ピーニングが可能となるシステムを利用した実験を行ってきたが,プラズマの照射を併用するためにシステムの構築に向けての基本設計も実施した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
チタン系材料に対して窒化処理を施した場合,被処理材の疲労特性が低下することが従来までに広く報告されており,ガスブローIH窒化処理材でも同様の報告がなされている.その要因の1つとして,高温,特に高い温度で窒化処理を施すことによる相変態や結晶粒粗大化が挙げられる.これは,窒化処理の温度を低温化することにより抑制されると考えられる. 従来,ガスブローIH窒化処理において,噴射するガスの流量を増加させることにより窒化が促進することが報告されている.それより,被処理材表面に窒素ガスを積極的に噴射することで,窒化がより促進される可能性が考えられる.そこで平成28年度はまず,ガス流速を変化させて処理を行い,形成される窒化層の特性に及ぼすガス流速の影響を検討した.さらに,ガス流速を上昇させることによる処理温度の低温化の可能性について検討を加えた. その結果,ガスブローIH窒化処理において,ガス流速を上昇させることにより,被処理材の窒化が促進することが明らかとなった.これは,ガス流速を上昇させることにより,IHの出力が増加し,それにより窒素原子の拡散が促進したことに起因するものと考えられる.また,ガス流速を上昇させることにより,低温(700℃)で処理した場合でも,高温(900℃)で処理した場合と同程度に被処理面を高硬さ化できる.これにより,Ti-6Al-4V合金の耐摩耗性を向上させつつ,疲労特性低下を招く針状アルファ相の形成および結晶粒粗大化を抑制できることが明らかとなった. 疲労特性に関しても検討を行っており,低温化することで,これまでは処理により疲労強度が低下したが,ほとんど変化がないことがわかってきた.この点に関しては次年度以降も継続的に検討をする予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
疲労特性を向上させるためには,処理の低温化が最重要課題である.次年度は,基材と窒素との反応性を高めることを目的として,処理時に窒素プラズマを照射できるようなシステムを構築する.具体的には,ガスブローIH窒化の専用処理システムを構築し,種々の検討を実施する予定である.当初の申請書には,これまでの処理システムを改良することを計画していたが,ここでは新しいシステムを構築することを計画している.これにより処理の低温化が実現されたじてんで下記の検討を行う予定である. まずXRDによる分析を行い,表面に窒素化合物が形成されているか否かを調べる.これより,窒化ができたか否かをしることができる.また,試験片断面上において,EDXによる元素分析を行い,窒素の拡散状態を調べる.さらに,断面上でSEMおよび光学顕微鏡による観察を行い,組織の粗大化の有無を確認する.必要に応じて結晶粒径の定量化を行う.また,疲労特性には素材の硬さも大きな影響を及ぼす.そのような観点から,断面上において,深さ方向のビッカース硬さ分布の測定も行う. つぎに,疲労特性の評価を実施する.具体的には,小型の4点曲げ疲労試験用治具を用いて疲労試験を実施し,S-N曲線を得ることにより疲労強度特性を調べる.なお,この治具を用いることにより,長さ18mm,幅3mm,厚さ1mmの寸法の小型試験片の疲労試験が可能となる. 次に疲労破壊メカニズムの解明に取り組む.表面改質材の場合には,試験片内部から疲労破壊が発生する場合がある.ここでは,破面観察を実施し,疲労破壊起点を明確にする.また,別途,引張圧縮負荷のもとでの疲労試験も実施し,疲労き裂の発生と進展の挙動を詳細に調べる. これらの成果を総括して,申請タイトルにも書かれている,大気圧プラズマアシストIH窒化プロセスの研究に関する今後の課題をまとめる.
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