2016 Fiscal Year Research-status Report
気液界面の非平衡分子動力学計算に基づく拡張された流体方程式の探求
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16K14160
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
矢野 猛 大阪大学, 工学研究科, 教授 (60200557)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子流体力学 / 分子動力学 / 流体方程式 / 不安定現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績の概要は以下のとおりである。 (1) 直径1ナノメートルから5ナノメートルまでの微細な液柱の巨視的な意味での静止状態の解を分子動力学計算を用いて求めて、気液界面領域の密度と、そこで空間的に非一様な分布をもつ応力を数値的に精密に評価した。これを用いて、ナノ液柱の界面における表面張力ならびに張力面半径を算出した。 (2) その結果に基づいて、密度と応力が非一様な静止状態を解に持つ拡張された流体方程式を構築した。 (3) 拡張された流体方程式に対する線形近似の理論解と、巨視的な意味で非定常な液柱崩壊過程の分子動力学計算の結果を詳細に比較し、拡張された流体方程式の有効性を検証した。とくに、分子動力学計算の結果に対して時間と空間に関するフーリエ解析を適用し、理論解の不安定モードの空間分布形状および不安定モードの時間成長率の両方が、分子動力学計算の特徴を的確に表していることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究が現在まで順調に進展している理由として、技術的な面からは、(1) ナノ液柱の巨視的な意味の静止状態の解を求める分子動力学計算を、単一種のレナード-ジョーンズ流体の気液平衡状態として得るという当初計画が適切な設定であったこと、(2) 代表者が、平面液膜の気液平衡状態の分子動力学計算に関する十分なノウハウを有していること、(3) レナード-ジョーンズ蒸気に周囲を囲まれたレナード-ジョーンズ液柱という計算対象が、当初計画どおりの計算負荷のもとで計算可能であったことなどが挙げられる。一方、研究構想の面からは、国際ワークショップや国際会議などにおける調査研究と情報収集の成果によって、拡張された流体方程式の概念を一層明確に先鋭化させることができたからであると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点までの進捗がおおむね順調であることを踏まえて、当初計画から一歩踏み込んで、直径が1ナノメートルより小さい液柱と直径が5ナノメートルより大きい液柱に対して分子動力学計算を実行して、現時点までに得られている結果の適用可能性を探求する。これはすなわち、拡張された流体方程式という概念の限界を探求することを意味する。とくに直径が1ナノメートルより小さい液柱は、分子動力学計算によってさえ実現することが技術的に難しいが、これが実現できて拡張された流体方程式の適用可能性が実証されれば、古くから続く連続体という概念自体を更新することが期待される。この分子動力学計算を実行するためには、計算過程に新たな技術的な工夫を施す必要があるが、それについても既にいくつかのアイデアは用意している。
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Causes of Carryover |
とくに2016年から2017年にかけて欧米において、大自由度熱力学的非平衡系を主題とする国際ワークショップや国際会議が頻繁に開催され、これらに参加することによって本研究課題の一層の進展が見込まれるため、約70万円を次年度(2017年度)使用額となるように研究計画を更新した。一方、本研究課題の中心となる分子動力学計算とその計算結果の解析および拡張された流体方程式の検証は、当初計画通りに進行しており、研究費使用計画の変更による影響はない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年に欧米で開催される大規模な国際会議において、大自由度の非定常非平衡系に関する調査研究ならびに情報収集を行うことが、上記の変更点が直接反映される点である。研究計画の他の部分は当初計画どおりである。
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