2016 Fiscal Year Research-status Report
固体酸化物燃料電池の限界電流密度に向けた原子ラべリング計測
Project/Area Number |
16K14171
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
花村 克悟 東京工業大学, 工学院, 教授 (20172950)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ナノマイクロ熱工学 / 固体酸化物燃料電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、固体酸化物燃料電池の三相界面近傍における酸素イオンの輸送を酸素同位体を導入した原子ラべリング法により測定し、第一原理計算を用いて反応過電圧(反応による抵抗)の要因を明らかにしようとするものである。本年度は、ヘリウムガスの衝突噴流システムを組み込んだ発電装置を独自に考案し、ボタン型燃料電池を800℃において発電中に、酸素同位体を導入後、わずか1.5秒間に室温まで冷却できる装置を製作した。そして、酸素極を対象として、急冷されたサンプルの断面を鏡面研磨し、2次電子イオン質量分析により、空間分解能50nmにおいて酸素同位体の濃度分布マッピングを取得することに成功した。酸素イオン導電体であるYSZ粒子内部の濃度分布は拡散が速いため取得することができなかったが、これと隣接するLSM粒子内部において、同心状の同位体酸素濃度分布を確認することができた。これは、従来から指摘されているように、電流密度が高い場合、酸素イオン導電体であるYSZのみではなく、酸素分子から酸素イオンへの化学反応触媒となるLSM粒子内部も酸素イオンが拡散する様子を示している。この結果は、実機レベルのサーメット状酸素極において世界で初めて実験的に明らかにしたものである。しかも、酸素極の中で、電解質に近い位置ほど、この同位体酸素のLSM内部への拡散が著しく、この領域では電流密度が高いことが明確となり、さらに、その分布が確認できる領域は、電解質との界面から3~4ミクロンの範囲であることも明確となった。また、酸素極と集電体との接触の良し悪しにより、酸素極内部の同位体酸素の濃度分布が生ずることが明らかとなり、これらが限界電流密度に達しない要因の1つであることも明確となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の核となる急冷システムが本年度中に稼働するところまで達成され、また、それにより直径1~2ミクロンのLSM粒子内部の同位体酸素の濃度分布が、空間分解能50nmにて観察されたことは、大きな進歩であると思われる。また、集電体との接触が不均一である場合には、酸素極を導電するイオン流束も不均一となることを、このマッピングから読み取ることができ、限界電流密度発電への足がかりとなったことと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
酸素極から同位体酸素を供給し、燃料極の酸素イオン伝導体であるYSZ内部の同位体酸素の濃度分布を測定することは、かなり厳しいことが、本年度の酸素極における実験から見通すことができた。そこで、逆転の発想として、燃料極に、同位体酸素を含む水蒸気を供給し、かつ電流を流しつつ、燃料極三相界面において、水蒸気から水素を生成する電気分解反応を生じさせ、同位体酸素が三相界面の近傍をどのように拡散するかを可視化することとする。急冷装置を発電装置に組み込んだ独自の実験装置だからこそ取り組むことができる研究であると思われる。そして、燃料極三相界面の活性な領域を特定し、実際のサーメット燃料極において、実質的な三相界面の有効面積(三相界線の有効長さ)を特定する。そして、全ての三相界面が機能した場合の限界電流密度を推測し、酸素極や集電体とのコンタクト損失とも併せて、限界電流密度を達成できる理想的な固体酸化物燃料電池の発想へとつながるように研究を総括する。
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