2016 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ殺菌の原理解明に向けた活性種の殺菌力の計測
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16K14208
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (90323443)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放電プラズマ / 活性種 / 殺菌 / 真空紫外光 / 光解離反応 / OHラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
放電プラズマを使った殺菌の研究が、近年精力的に進められている。プラズマ殺菌では、プラズマ中のOHやOなどの活性種が殺菌に寄与していると言われているが、個々の活性種の殺菌力を計測する手段がなく、どの活性種が殺菌に効いているのかよく分かっていない。本研究では、申請者が開発した、真空紫外(VUV)光の光解離反応で特定の活性種を生成する装置を用いて、プラズマ殺菌の様々な活性種の殺菌力を測定する。そして、本手法をプラズマ殺菌の原理解明に向けた新しい手法として提案する。 初年度である今年度は、OHラジカルの殺菌効果を測定できる装置を設計し、製作した。この装置を用いて、寒天培地上で培養した芽胞菌(Bacillus atrophaeus ATCC 9372)をOHで殺菌し、OH密度(cm-3)×照射時間(s)の積を指標として10(13)s/cm3のオーダーで照射したときに、視認できる程度の殺菌が生じることが分かった。OHラジカルは活性種の中でも最も殺菌効果が高いと言われているが、OHを単独で生成して菌に照射する手法がこれまでなかったため、OHの殺菌効果を測定した研究はまだ存在しなかった。本実験は、OHの殺菌効果を定量的に示した初めての成果であり、その成果はJournal of Physics D: Applied Physicsに掲載された。また、本手法でO3による同様の殺菌効果も調べ、OHにはO3の少なくとも20倍以上の殺菌効果があることを示した。 本手法の活性種密度は自作したシミュレーションで求めているため、シミュレーションの妥当性を調べる実験も行った。様々な条件でO3, H2O2, O2(a)密度を計測し、シミュレーション結果と比較した。その結果、シミュレーションにいくらかの修正が必要なことがわかっており、来年度の継続課題とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、(1)活性種生成装置の製作、(2)活性種の殺菌力の測定、(3)活性種密度計測による活性種生成装置シミュレーションの妥当性評価の3つを目的とする。(1)の装置の製作については初年度に行い、まだ改良の余地はあるものの、装置は順調に機能している。(2)の殺菌力の測定については、当初の予定を超えた成果を初年度に得た。まだ1種類の菌に対してではあるが、OHの殺菌力を定量的に評価するという極めて重要かつ初となる成果を得ており、その研究成果はJournal of Physics D: Applied Physicsに掲載された。一方、(3)の活性種生成とシミュレーションの妥当性評価についてはやや遅れており、O3、H2O2、O2(a)の計測とシミュレーションとの比較は行ったものの、測定値とシミュレーション結果の差異について十分な検討をまだ行っておらず、シミュレーションの改良には至っていない。また、重要なOH密度の計測をまだ行っていない。以上まとめると、当初予定よりも進んだところと遅れているところがあり、全体としてはおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回は、芽胞菌に対してOHの殺菌効果を調べた。今後は最低でももう1種類菌を追加し、異なる菌で活性種の効果がどのように変わるかを調べる。候補としては大腸菌を考えている。 もう1点、今回の実験で、活性種を照射するときの流速を遅くすると、同じ量(フラックス)の活性種を照射しても殺菌率が落ちる現象が観測された。再現性を確認する必要があるが、これが事実とすれば、菌とOHの反応速度に対してOHの供給速度が十分ではなくなったため殺菌率が落ちたことが考えられる。この現象を用いれば、OHの供給速度を変えて殺菌率を測定することで、OHと菌の反応速度を測定できる可能性がある。今後はこの実験にも取り組む。 活性種密度計測とシミュレーションの検証については、これまでに測定したO3、H2O2、O2(a)の計測を様々に実験条件を変えて継続し、シミュレーションとの差異について考察する。その結果をもとに、シミュレーションを改良する。実験精度を上げる努力も、引き続き行う。また、殺菌に重要なOH密度の計測についても行う予定である。レーザー誘起蛍光法を用いてOH密度を計測し、シミュレーションと比較して、シミュレーションの特にOH密度に対する妥当性を検証する。
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Causes of Carryover |
今年度は、当初予定していた活性種の計測がやや遅れており、レーザー誘起蛍光法によるOHラジカル密度の計測の準備までたどり着けなかった。そのため、予定していた光学部品の購入が次年度にずれ込んでおり、次年度に購入する予定としている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に活性種密度のレーザー計測を行うため、その光学部品を購入する。その他にも、活性種照射器の改良や、消耗品である真空紫外光源ランプの購入、また殺菌実験に用いる各種バイオ関係の消耗品等を購入する。
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Remarks |
なし
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Research Products
(19 results)