2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K14265
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
田久 修 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (40453815)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 物理層セキュリティ / 電波センサ / 人工雑音 |
Outline of Annual Research Achievements |
無線LANなどの室内無線通信による通信エリア外への電波漏洩に起因した情報漏洩対策として、人工雑音発生機能を有した多数の電波センサによる漏洩対策を検討している。本年度は、通信エリアの境界面上に電波センサを多数配置し、電波センサの人工雑音発生による情報漏洩抑制能力を評価した。評価方法としてレイトレーシングシミュレータを導入し、反射・屈折・回折の電波の波動現象を考慮した。基本評価のため、正方形の部屋を通信エリアとし、周辺に反射物体は存在せず、エリア境界の壁面における電波の波動現象を考慮した。無線LAN利用を想定し、2.4GHz帯の周波数を仮定した。評価では2つの課題が生じた。1つ目の課題は、人工雑音の正規受信者への干渉である。人工雑音による干渉の結果、正規通信者の自動レート制御により復調に必要な所要信号電力を引き下げられた。その結果、盗聴者が復調に要する所要信号電力も下がり、人工雑音が反対に盗聴を容易にする場合があった。2つ目の課題は、通信エリア外への電波漏れこみ量を推定する電波伝搬モデルが必要になった。そこで、センサに壁面から垂直方向を指向性の中央とする指向性アンテナを人工雑音発生アンテナに用いた。また、電波伝搬に距離減衰モデルを導入し、通信エリア外の電波漏洩量を予測した。評価の結果、電波センサを通信エリアの境界に網羅的に配置することで、人工雑音の面的展開を可能にした。これより、単独の人工雑音発生に比べて、少ない人工雑音電力量でエリア外での復調困難性を確保した。さらに指向性アンテナにより正規通信局への人工雑音の放射を回避し、安全性が向上することを確認した。 しかし、新たな課題も生じた。まず、スポット的に通信エリア外で復調可能になり、情報漏洩対策としての脆弱性を確認した。さらに、電波漏洩量の予測結果と実際の漏洩量との差異が認められ、過剰な人工雑音を発生していることが確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究開始時の基本検討の評価において課題が見つかり、当初予定していた実機による電波漏洩量の評価を実施することができなかった。しかし、課題に対する解決策は明らかになっており、現在、解決法を取り入れた評価を進め、一定の成果が得られている。それゆえ、実験計画の遅れを取り戻すことができる見通しがあり、目的達成に向けて着実に研究が進めることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究により2つの課題が明らかになった。1つ目は、電波センサによる通信エリア外への電波漏洩量の予測精度が低いこと。2つ目は、相互干渉により人工雑音が打ち消され、スポット的に復調可能となるエリアが存在することである。そこで、下記の2つの課題を新たに設定する。 1つ目は多数の電波センサによる受信状態パラメータと電波漏洩量とのデータベース構築である。通信エリア境界上に配置したセンサにおいて、正規通信者が発した電波の受信強度、到来波数、遅延広がりなどを評価し、受信状態パラメータとして記録する。同時に、通信エリアの外にもセンサを配置し、漏洩電波の電界強度を評価する。そして、漏洩電波の電界強度と通信エリア境界上の電波センサによる受信状態パラメータを統合したデータベースを構築する。そして、受信状態パラメータと漏洩電波の電界強度との関係性を導く解析を進める。解析結果から漏洩電波の電界強度を高精度に推定する推定器を作成し、受信状態パラメータを推定器に入力することで電波漏洩の危険性予測や電波漏洩を抑制する正規通信者の無線制御に応用する。さらに、通信エリア外の電波センサは一時的な配置とし、取り外された後の環境変化による電波漏洩電力の予測精度の変化を明らかにする。 2つ目は、人工雑音の脆弱性を考慮した正規通信者のアンテナ指向性制御である。正規通信者のアンテナ指向性を一定時間ごとに切り替える。その結果、情報漏洩の危険性の高い受信地点での連続的な情報搾取を困難にし、暗号化などの他の安全性を確立する技術と併用して安全性を確保する。指向性の切り替えによる復調困難性の変化などを定量評価し、効果的な指向性制御を明らかにする。
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Causes of Carryover |
研究進捗に遅れがあり、予定していた無線LANの電波漏洩の評価実験を実施できなかった。そのため、関連する測定器の購入を控えた。さらに、本年度は学会等での成果発表はなく、成果発表に対する旅費等においても残額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の請求額と合算し、評価実験で使用する廉価な測定器の導入を予定している。また、レイトレーシングシミュレータにおいて無線環境の時間変化を模擬可能なオプションの導入を予定している。さらに、最新の電波漏洩及び無線通信システムの動向調査及び、本研究課題の研究成果を発表するため、国内外の学会への参加を計画しており、その旅費等に使用する予定である。
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