2016 Fiscal Year Research-status Report
橋梁の点検効率化のための、衛星SARを用いた変位量、変位ベクトル、変動速度計測
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16K14298
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
須崎 純一 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90327221)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
赤塚 慎 高知工科大学, システム工学群, 助教(PD) (80548743)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 衛星SAR / 橋梁 / 変位 / モニタリング / 水蒸気遅延 / 気象データ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年は、まず光学画像とGPSデータから可降水量の推定手法を構築した。GPSデータのネットワーク単独から得られる可降水量分布図は空間解像度が数~十数km程度と低いが、気象衛星ひまわり画像の複数の熱赤外バンドとGPSデータを用いて、水蒸気量を1 km程度の解像度で面的に推定するモデルを構築した。可降水量の推定において、気象庁のメソ数値予報Grid Point Value(GPV)とShuttle Radar Topography Mission(SRTM)によって作成されたDEMを使用することで、従来手法より高時間・空間解像度を持つ可降水量を求めることができた。さらに、この手法により求められる可降水量には標高によるバイアスが含まれていることを明らかにし、このバイアスを取り除く補正を行うことでより高精度に可降水量を求めることが可能になった。 次に、水蒸気量によるマイクロ波の遅延の影響を補正して、合成開口レーダ(Synthetic Aperture Radar: SAR)画像から安定的に高さや変位量等を推定できる手法を開発した。ピクセル毎に可降水量を、高度による関数で表せると仮定し、衛星から対象ピクセルまでに通過する各ピクセル上空でマイクロ波に影響を与える可降水量を積算し、スラントレンジ方向の水蒸気遅延量を求めた。これによって、差分干渉SAR (Differential SAR interferometry: DInSAR)画像における正確な水蒸気遅延量の評価が可能になった。 最後に、橋梁の変動量解析を行った。極端な変動量が発生した橋梁として、2016年4月に発生した熊本地震とその前震、余震により変動を受けた3つの橋梁と、比較的変動を受けていない3つの橋梁を対象に、実画像を用いて変位量等を推定できるか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
可降水量の推定において、気象庁のメソ数値予報GPVとSRTMのDEMを使用することで、時間解像度が地表面で1時間、気圧面で3時間、空間解像度が90 mという高時間・空間解像度を持つ可降水量を推定できた。また、この推定水蒸気量によるマイクロ波の遅延の影響を補正する手法を開発した。L・XバンドSAR画像を用いて、気象データから求めた水蒸気遅延誤差とDInSAR画像自体から求めた大気による誤差の比較・検証を行った。差分干渉位相から大気成分の性質を利用しフィルター処理によって抽出した大気誤差と外部データを用いて求めた水蒸気遅延誤差の二つに正の相関があることを確認できた。このことから、気象データを用いることでDInSAR画像に含まれている大気誤差成分を評価できることがわかった。 橋梁の変動量解析における提案手法では、まず地震前に得られた二時期の画像から算出した相関係数を意味するコヒーレンスと、地震を挟んだ二時期の画像からのコヒーレンスから生成した二組のヒストグラムを分析することで、被害の大きい橋梁を抽出する。その後、地震を挟んだ二時期の画像間での干渉処理により位相差を求め、橋梁内の特定の地点に対する二重位相差をとり、アンラップ処理を施すことで最終的に衛星視線方向の変動量を推定する。このように提案手法は、干渉処理の欠点であるノイズに鋭敏な点を回避するためにコヒーレンス解析で被害を受けた橋梁だけを抽出し、その後、干渉処理の特長であるサブピクセルレベルの変動量推定を実現するものである。熊本地震の前後に取得された、ALOS-2 / PALSAR2画像を用いて実験した結果、コヒーレンス分析による被害橋梁の判別は定性的に成功していると確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
数値予報データとDEMを用いた可降水量推定の際、標高によるバイアスの補正には補正係数が必要となるが、補正係数は月ごとに変化することがわかっている。今後は、この補正係数が年や地域によってどの程度異なるかを検討し、より汎用性の高い可降水量推定手法の構築を目指す。 水蒸気量による遅延の補正に於いては、Xバンドレーダは波長が短いことから、SAR画像内の大気遅延における電離層遅延の割合が小さくなり、Lバンドでの検証時より高い相関を示すと予測していた。しかし、今回の両バンドにおける検証ではどちらの場合も電離層の影響が小さく、バンドの違いによる相関係数の明らかな違いをみることはできなかった。今後は、Lバンド、Xバンド共に活用できるよう、水蒸気遅延の影響を定量的に評価できるよう解析を進めていく。 橋梁の変動量解析に於いては、橋梁の向きに依存せずに安定的に橋梁の変動を推定できる手法の確立が求められる。一般的な構造物にも共通するが、SARのレーダの進行方向と構造物の壁面の法線がなす相対方位角が大きいと、レーダの反射強度が極端に弱くなり、解析が極めて困難になる。研究代表者は過去に、建物からの反射強度を相対方位角別に基準化することで、弱い反射強度でも十分に解析できる手法を確立している。但し、その手法は多偏波SAR画像の使用を前提としている。時系列変動解析に使用されるのは単偏波画像であり、その差は大きい。今後は、多偏波SAR画像を用いて、反射強度の基準化を試みつつ、時系列解析する手法を開発することが挙げられる。
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Causes of Carryover |
出張の回数、及び学生謝金の額が予定より少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は学会発表や学生謝金などに充当して使用する予定である。
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