2016 Fiscal Year Research-status Report
戦災復興都市の高度経済成長期の市街地形成経過と今日の都市縮小との関係に関する研究
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16K14354
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
浅野 純一郎 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10270258)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 戦災復興都市 / 高度経済成長期 / 市街地形成経過 / 都市縮小 / 線引き制度 / 土地区画整理 / 空き家 / 人口密度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、復興土地区画整理事業によって都心部に確固たるインフラ基盤を持つ戦災復興都市における、①高度経済成長期(主に1950-70年)の市街地拡大の実態と②それによる当初線引き(主に1970~1975年)への影響を明らかすること、加えて、③こうした市街地拡大経過(特に土地区画整理等の基盤整備の有無)と今日の市街地の空洞化との関係を実証的に明らかにすることである。これらを把握する為に、複数都市の多数同時の比較検証から状況を把握するマクロ分析と、典型的都市のケーススタディを通して仔細に現象把握するミクロ分析の2つを取り入れている。 研究実績は、まず①②を概括する査読論文を1編まとめ、本研究の前段で掲げていた目標をほぼ達成した。これはいわば現象を鳥瞰するマクロ分析的手法であり、他方で、ミクロ分析手法の適用も念頭にいれて現在進行中である。これは特定の都市の具体に踏み込むものであるが、扱うデータが膨大であり、解析途上にある。次に③については、市街地空洞化を現す指標を空き家の発生状況に設定した。対象とする自治体の一部から詳細な実態データが入手可能であったため、ミクロ分析手法を特定都市のケーススタディという形式で進めている。 その他、本研究に関連するサブテーマとして、戦災復興区画整理で整備された駅前空間が、今日の中心市街地の再生にどう関連しているのか、を設定し、本研究テーマの補足的調査として行った。これについては査読論文1編が採択、さらに1編を投稿中というレベルで成果を上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄で説明したように、本課題が掲げる方法の中で、①②の個別テーマを概括する研究成果を、日本建築学会計画系論文集(査読論文)に「戦災復興都市の高度経済成長期における市街地形成経過と当初線引き画定との関係に関する研究」として発表した。また本課題を細くする研究成果として、同学会技術報告集(査読論文)に「戦災復興都市における中心市街地活性化事業による土地区画整理事業の計画特性に関する研究」として提出し採択が決定している。さらに「戦災復興都市における中心市街地活性化事業による駅前空間の変容特性に関する研究」を同じく技術報告集に投稿済みである。 次に調査分析の進捗状況であるが、高度経済成長期における実態としての市街地形成経過を把握する手法として、国勢調査の調査区レベルの人口密度を用いることとし、対象都市を8市程度にしぼり、総務省統計図書館よりデータ入手を行っている。この内、豊橋市については対象時点として設定した1960、1970、1975の3時点でGIS上に市街地形成経過を再現した。他の7市については鋭意作業を続けている。 続いて「研究実績の概要」で示した③の課題は、豊橋市から詳細な空き家データを入手し、その分布状況が属性をGIS上で再現した上で、特色を分析した。口頭発表論文として投稿済みの段階である。今後はこれを高度経済成長期の市街地形成経過の特色と重ね合わせる分析を行う予定である。これはミクロ分析として試みるものであるが、他方でマクロ分析として今日の都市縮小の状況を現す指標を設定し、俯瞰する分析が必要である。この手法を現在検討している段階である。 以上のようなことを総合すると、「おおむね順調に進展している」と評価できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は2年間を予定しており、本年は2年目である。 「研究の実績」及び「現在までの進捗状況」で記した内容を踏まえると、本年度の目標・推進方策は明快で、以下のようになる。まず、①のミクロ分析に関連し、国勢調査の調査区レベル人口密度を用いた市街地形成経過把握手法を、分析解析手法として確立することがあり、豊橋市の高度経済成長期の市街地形成経過の特色としてまとめる必要がある。その上で、③として実績がすでにある、今日の豊橋市の空き家発生状況と重ね合わせ、その関係を明らかにすることがある。これは1市のみのケーススタディであるが、本研究課題が「挑戦的」として主張した、過去の事象と現在の事象との関係性を問う手法の可否の根幹に関わることなので、これを確実に行うことが必要である。 次に、このミクロ手法は他の7市でも進めているが。膨大な労力と時間を要する。その為、今日の都市縮小の状況をマクロレベルで把握できる手法を開発し、すでに成果をあげた①②を概括する論文の成果と重ねることで、マクロ分析としても過去の事象と今日の事象の関連を問う方法を開発したいと考える。以上が2年目の目標である。
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Causes of Carryover |
本研究はマクロ分析とミクロ分析の2つの手法から成るが、研究費が特にかかるのは、ミクロ分析(総務省統計図書館からのデータ入手及びこのデータのGIS入力)の部分である。初年度は、この分析を主に任せたのが学部4年生であり、不慣れな部分もあって、なかなか進まなかった。よって、データ収集のための調査出張を控えるとともに、GISソフトの追加購入による分析促進環境の構築を見送った。逆に、研究はマクロ分析の部分を主に進めることになった。上記の理由から初年度の支出金額が少なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2年目は主にミクロ分析を推進する。具体的には推進体制として、主に取り組む修士学生を2~3名体制とし、総務省統計図書館へのデータ入手出張の短期集中実施やGIS入力環境の拡充(1~2セットの追加)を行うことによって、最も大変なミクロ分析の進捗を進める。これによって、研究予算の消化も当初の計画通りに進むものと考える。なお、現在投稿中の査読論文が2編あるため、いずれ発生する、その掲載料等を考慮すれば、上記の金額は15万程度低いものと考えられる。
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