2016 Fiscal Year Research-status Report
登録有形文化財住宅における「守るために活かす」計画技術に関する研究
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16K14358
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
徳尾野 徹 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (80237065)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
横山 俊祐 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (50182712)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 登録有形文化財 / 保全 / 活用 / 住み開き / 住み継ぎ / ストック / 改修 |
Outline of Annual Research Achievements |
登録有形文化財住宅を優れた空間やデザインを有する建築資源・地域資源といった現代的な視点から評価し、その保全と活用の可能性を探るために、公開・活用を実践している13件の私有の文化財住宅を対象として、建物視察、図面等資料収集および所有者ヒアリングを実施した。主なヒアリング項目は、①建物の概要、②改修工事、③住み継ぎ、④文化財登録の経緯、⑤公開・活用である。 登録・保全・活用の経緯を明らかにした上で、文化財住宅の活用によって来訪者に対して提供される環境の特性を「生活」「歴史」「非日常性」の3視点から探った。その結果、以下の4タイプに分類できた。①生活環境型:主に私的生活空間の一部を活用するものである。20世紀前半から半ばに建築された比較的新しい規模の小さな郊外住宅である。②歴史環境型:文化財住宅全体を公開し、19世紀以前の建築当初の空間、継承されたモノを見せる。NPO等の団体による運営・サポートが特徴である。③非日常環境型:質の高い空間を活かして、宿泊やギャラリー等に転用したものである。④複合環境型:住まいの一部を公開・活用するものである。「①」と異なり、比較的規模の大きな農家であるため、私的空間が公開・活用部分から分離されている。所有者を中心とする任意団体の運営サポートが特徴である。4タイプ13事例について提供される環境特性と開く手法を明らかにした。現在、開くことが望まれかつ比較的開くことが容易なのは、都市近郊の旧農村集落に点在する、住み手在住の「複合環境型」に分類される大規模農家と考えられる。このような私的文化財住宅に対して必要な提案は、住環境の整備計画と活用計画ならびにサポート組織の立ち上げ、建物を維持する保全計画となる。 文化財住宅の保存・活用といっても、開くことで提供される環境によってその手法が異なることが明らかとなった。今後の文化財住宅の活用に向けて有用な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
総合的には概ね順調に進展しているが、以下の理由により研究計画を組み替えている。 当初の研究計画では、初年度(平成28年度)に近畿圏の登録有形文化財住宅の所有者を対象としたアンケートによる悉皆調査を行い、立地や建築実態および保全・活用の全体像を把握し、2年目(平成29年度)に先進的個別事例調査を通して、文化財住宅の価値・意味・位置づけ・可能性を再考する予定であった。しかし、予備調査を始めたところで、大阪府登録文化財所有者の会と大阪府建築士会が共同で府下の登録有形文化財所有者に対して「登録文化財の保存と活用等に関するアンケート調査」を実施していることが判明した。そこで研究計画を変更して平成28年度に先進的個別事例調査を、平成29年度にアンケート調査を実施することにした。また、先進的個別事例調査のための情報収集の過程で、積極的に公開・活用している個人所有の文化財住宅は大阪府を中心とする近畿圏の特徴ではないか、という新たな仮説が生まれてきた。そのため、平成29年度のアンケート調査は近畿圏だけでなく、全国の登録有形文化財住宅の所有者・運営者を対象とすることにする。
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Strategy for Future Research Activity |
アンケート調査の対象が近畿圏から全国に拡大することになったが、近畿圏には全国の登録有形文化財住宅の約4割が集積しているため、配布数は約300から750に増える程度なので、経費の増加は調整の範囲内である。また、平成28年度の先進的個別事例調査で築いた所有者・運営者との関係を維持・強化するために文化財住宅の保全・活用に関する活動に積極的に協力し、最終年度(平成30年度)の実践的取り組みに繋げていく。
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