2016 Fiscal Year Research-status Report
歴史的建造物を建築基準法適用除外するために必要な包括的な同意基準の研究
Project/Area Number |
16K14364
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上北 恭史 筑波大学, 芸術系, 教授 (00232736)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲葉 信子 筑波大学, 芸術系, 教授 (20356273)
吉田 友彦 立命館大学, 政策科学部, 教授 (40283494)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 建築基準法適用除外 / 歴史的建築物 / 木造建造物 / 京都市 / 町屋 / 伝統構法 / 保存 / 京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「古民家等の歴史的建築物の活用のための建築基準法の適用除外」の政策を受けて、建築審査会の同意を得て建築基準法を適用除外するための「包括的な同意基準」について調査する研究である。そのため歴史的建築物の活用のために建築基準法の適用除外のための条例を制定した地方公共団体における運用実態について調査し、平成28年度は京都市で行われている建築基準法適用除外の制度とその運用について実態を把握した。 4万棟以上の京町家や数多くの歴史的建築物を有する京都市は、歴史的建築物の保存・活用のために全国に先駆けて「京都市伝統的な木造建築物の保存及び活用に関する条例」を制定し平成24年4月に施行した。これは平成25年11月1日に木造以外の歴史的建築物にも対象を広げ、「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」に改正された。平成26年末の時点で3件の木造建築物および1件の鉄筋コンクリート造の歴史的建築物が本制度の適用を受けている。 京都市は基準法適用除外を受けるに当たって保存活用計画を策定することを求めているが、そのなかで「保存建築物の安全性の確保等に関する指針」を示し、耐震、防火に対する安全性確保について述べている。 平成26年4月1日の技術的助言において建築基準法第3条第1項第3号の規定の適用に当たって地方公共団体が建築審査会の同意のための基準を定めるように助言している。「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」によって適用除外を受ける制度は、建築審査会の審査を経る制度であり同意基準を定めていない。しかし京都市において建築基準法の適用除外を認定していく過程で根拠にした耐震性や防火のための考え方は、これから地方公共団体で定めていく同意基準の方向性を示していると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
京都市における建築基準法適用除外の制度を受けて実際に修理、改修が行われた事例は、平成26年度末の時点で3件の木造建築物および1件の鉄筋コンクリート造の歴史的建築物の計4件であった。年2件の歴史的建築物が基準法適用除外を受けていることになるが、4万軒以上の町屋を有する京都市にとっては、制度の有効活用のためにも更に適用事例を増やすことが期待される。その理由は、「保存建築物の安全性の確保等に関する指針」の中で示されている耐震や防火に対する安全性能を確保するために、耐震補強、防火対策に対する改修などに費用がかかるためであり、その対策に所有者が自費で対応しなければならない負担の大きさのためである。「保存建築物の安全性の確保等に関する指針」の中で示されている指針は、木造における耐震基準の場合、限界耐力計算による数値を目標としているが、防火対策の場合、避難路の確保や消防侵入の確保、避難訓練などソフトによる対応を求めており、事例によって対処法が異なる。このような場合、基準法適用除外を受けた事例をみても、一般的な対処法として考えていくためには事例が少なすぎる。 さらに建築基準法適用除外の制度の策定を行っている自治体は京都市を始め、神戸市、福岡市、横浜市、鎌倉市、川越市などでそれほど広がってはいない。建築基準法を適用除外するための「包括的な同意基準」の事例を把握するには、まだ制度設計の域を出ておらず、具体例に沿って導き出せる包括的な同意基準の傾向を調べていくには事例数が不充分である。
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Strategy for Future Research Activity |
建築基準法が適用された歴史的建築物改修事例の調査として、京都市の釜座町町家改修事例を調査する。この町屋は「京都市歴史的建築物の保存及び活用に関する条例」の制定前に改修されているため、耐震補強など独自の方法で行なうことによって経済的側面も効果を上げているため、包括的な同意基準の参考事例とする。また伝統的建造物群保存地区における防災対策と地震による被災事例の調査として、調査対象地を神戸市北野町、輪島市黒島、香取市佐原、桜川市真壁、を対象に、修理事例を収集する。特に東日本大震災で被災した香取市佐原はこれまでの研究の蓄積を利用して、被災しなかった建造物の調査を行ない、震度5 程度の地震に耐えた建造物の特徴、修理方法を整理する。
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Causes of Carryover |
平成28年度に岡山市の建築基準法適用除外の事例を調査する予定であったが、実際は登録有形文化財の改修事例であり、建築審査会の審査を得て承認された事例であった。そのため建築基準法適用除外の審査基準を適用された事例は確認されなかった。そして建築基準法適用除外の事例を他の市町村で行う必要が生じたため、当初予定していた岡山市への調査旅費の残額がでた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
横浜市は、市指定文化財の近代建築物3件、古民家4件について建築基準法適用除外を適用して改修を行っている。これらの実際の建築改修物件について調査を行うための費用に充てることにする。
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