2016 Fiscal Year Research-status Report
トポロジカル絶縁体中転位を利用した新規高性能熱電変換材料の開発
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16K14371
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
枝川 圭一 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20223654)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 転位 / 熱電変換材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はBi-Sb系においてi)ブリッジマン法による単結晶作製、ii)塑性変形による転位の導入、iii)電子顕微鏡を用いた転位の型および転位組織の評価、iv)電気伝導測定、を行った。まずi)については高周波溶解法により、母合金を作製し、ブリッジマン法で単結晶作製を行った。単結晶性はX線ラウエ法で確認した。またEPMA法により組成分析を行った。数cmにわたって、組成ゆらぎのない単結晶試料が得られたことが確認された。ii)については、理論的に転位状態が形成するとされるバーガースベクトルの転位を導入するためには、主すべり系を抑えて副すべり系を活動させる必要がある。このため、主すべり系のシュミット因子が0となる方位近傍の圧縮軸で変形を行った。iii)については透過電子顕微鏡観察により直線性のよい転位が10の10乗から11乗(cm-2)の密度で導入されていることがわかった。その直線の方向はほぼそろっていた。またg-b解析によりバーガースベクトルを求め、これが転位状態を形成する条件を満たすことがわかった。転位線方向とbの方向は垂直であり、刃状転位であることがわかった。iv)については本学共通施設の低温センターの装置を用いて2~300Kの温度範囲で、転位線方向とそれに垂直な方向で電気抵抗率測定を行った。100~300Kの範囲では両方で顕著な違いはみられなかったが、100K以下で大きく異なるふるまいがみられた。転位線垂直方向では電気抵抗率は温度下降にともなって急激に上昇する一方転位線平行方向ではほぼ頭打ちとなり、2Kで約2倍の抵抗率値の違いが見出された。この違いは転位上に伝導状態が形成されたことを示唆している。Landauer-Buttikerの理論的枠組みで解析したところ、得られた抵抗値の異方性の大きさが妥当であることが示された。得られた結果をまとめ論文を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
9の研究実績の概要に記したように昨年度はi)ブリッジマン法による単結晶作製、ii)塑性変形による転位の導入、iii)電子顕微鏡を用いた転位の型および転位組織の評価、iv)電気伝導測定、を行い、最終的にiv)の電気伝導測定によって転位伝導を観測することに成功し、論文を投稿することができた。但し、当初はconductive-AFMを用いて、転位伝導を観測することを計画していた。これについてはバルクの抵抗値が十分でないため、今のところ成功していない。そのかわり、マクロな電気伝導測定ではあるが、転位線方向に対して平行・垂直の方向で測定することにより、転位伝導に起因すると思われる異方性を観測することに成功した。方法は当初計画とは異なるが、転位伝導の観測という目的は達せられ、投稿論文にまとめることができたので、おおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、熱伝導度(κ)、ゼーベック係数(S)の測定を行い、電気伝導度(σ)の測定結果と合わせてZT値の評価を行う。ここで、Z=(σS2/κ) である。電気伝導度とゼーベック係数は真空理工製のゼーベック係数測定装置(電気伝導度と同時測定可能)を用いて測定する。この装置は東大新領域研究科木村薫研所有のもので、借用する。熱伝導度はやはり木村研所有の熱拡散率測定装置を借用して測定する。 また、当初計画に入れていなかったが、Pb-(Bi,Sb)-Te系で同様な実験を行う。現在までに約40種の系で3次元トポロジカル絶縁体の形成が報告されているが、転位状態が形成し得るトポロジカル指数をもつものは限られており、Bi-Sb系以外ではPb-(Bi,Sb)-Te系がほぼ唯一の系である。Bi-Sb系にとどまらず、この系でも実験を行うことは有意義である。まずブリッジマン法を用いて単結晶を作製する。Pb-(Bi,Sb)-Te系は包晶反応で生成するため大きな単結晶を作製することが困難である。できるだけ単結晶のサイズが大きくなるように組成と引き下げ速度を最適化する。作製した試料をX線ラウエ法によって単結晶性を評価し、粉末X線回折法により結晶の質を評価する。またEPMA法により組成分析する。状態図から液相組成と析出する固相組成がかなり離れており、得られた単結晶に濃度勾配が生ずることが予測される。目標とする組成となっている箇所を切り出して、塑性変形による転位の導入、電子顕微鏡を用いた転位の型および転位組織の評価、電気伝導測定をBi-Sb系と同様に行う。 得られた結果を国内外の学会で発表し、論文にまとめる。
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