2017 Fiscal Year Research-status Report
Fe-C系セメンタイトの非化学量論性と熱力学的安定性に関する研究
Project/Area Number |
16K14435
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大谷 博司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70176923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
飯久保 智 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (40414594)
徳永 辰也 九州工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40457453)
榎木 勝徳 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (60622595)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | セメンタイト / 非化学量論化合物 / 混合エントロピー |
Outline of Annual Research Achievements |
Fe-C2元系に生成するセメンタイトには,正規のCサイト以外に八面体侵入型空隙が存在するため,この空孔とC原子の位置交換によって生ずる配置エントロピーの寄与が無視できない.エントロピーは自由エネルギーに対して-TS(Tは絶対温度,Sはエントロピー)の寄与として記述されるため,高温でその影響が大きく現れ,セメンタイトの高温での熱力学的安定性を増加させる可能性がきわめて大きい.そこで本研究では,これまでほとんど考慮されなかったセメンタイトの非化学量論性を計算と実験の両面から検討し,この合金系での黒鉛に対するセメンタイトの準安定性について考察することを研究目的としている.H29年度はまず,セメンタイトにおける空隙位置の同定を行った.すなわち,θメンタイトの結晶構造八面体の中心位置に存在する八面体位置にC原子を配置した構造モデルを考えた.さらにこの結果を踏まえて,クラスター展開・変分法によりセメンタイトの自由エネルギーを計算した.この計算ではセメンタイトのC原子と空孔が八面体空隙サイトに置換するモデルを用いた.この手法については本研究グループで独自に計算コードを開発し,置換型元素,侵入型元素を問わず多元系の自由エネルギーが計算できることを確認した.その結果,温度の上昇とともにFe3Cの化学量論組成での配置エントロピーが急激に増大することがわかった.セメンタイトと(Fe+黒鉛)の生成自由エネルギーの差はわずかに数kJ/molであるため,1000K以上の高温になるとセメンタイトが黒鉛に対して安定化すること可能性が指摘された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度はセメンタイトにおける空隙位置の同定を行った.すなわち,θメンタイトの結晶構造が空間群Pbnmの斜方晶であり,C原子は6個のFe原子が構成するプリズム型三角柱の中心に配置される以外に,八面体の中心位置にC原子が入る大きさの八面体空隙が存在できる.そこでこの構造(Fe12C4)を基本構造として,4bサイトと4aサイトの2種類の八面体位置にC原子を配置した構造モデルを考えた.具体的には微小なC濃度変化を考慮するために,θメンタイトのユニットセルを2×2×2に拡張した超格子Fe96C32を用いて,その八面体位置のいずれかにC原子が1個配置した場合の生成エネルギーをVASP を用いた第一原理計算により求めた.上記の各超格子構造に対して純鉄(bcc)と黒鉛基準の生成エネルギーを計算したところ,八面体位置4bサイトと4aサイトに炭素を固溶させたFe96C33超格子構造では,その値はそれぞれ0.0235 eV/atom,0.0373 eV/atomであった.このことから,八面体位置4bサイトがCの固溶サイトとして有力であることがわかった.また,クラスター展開・変分法によりセメンタイトの自由エネルギーを計算した.この計算ではセメンタイトのC原子と空孔が八面体空隙サイトに置換するモデルを用いた.その結果,温度の上昇とともにFe3Cの化学量論組成での配置エントロピーが急激に増大することによって,セメンタイトが安定構造といわれる黒鉛に対して,熱力学的安定性を確保する可能性があることがわかった.またその組成は,化学量論組成よりも高炭素側に位置することも明らかになった.そこで,Fe-1.8 wt.% C2元系合金を実際に溶製し,セメンタイトを抽出分離法により採集した.これをX線回折により分析し,格子定数の測定や八面体侵入型位置へのC原子の固溶を確認している段階である.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度における計算結果を踏まえてFe-C2元系合金を実際に溶製し,セメンタイトを抽出分離法により採集する.それをX線回折,中性子線回折により分析し,格子定数の測定や八面体侵入型位置へのC原子の固溶を確認する.さらにこれらの計算と実験結果を考慮しながら,組成変化を導入したセメンタイトからオーステナイトと黒鉛への分解反応の自由エネルギー変化を熱力学的に再検討し,非化学量論性による安定化機構の実証を試みる.Fe-C2元系に生成するセメンタイトの非化学量論性の実験的確認では,高周波誘導溶解によりC量を1wt.%から3.5wt.%までの範囲で変化させた合金を数種類溶製する.化学分析後これらを鍛造整形して,オーステナイト単相領域で溶体化加熱し,(オーステナイト+セメンタイト)2相領域で時効処理することによってセメンタイトを析出させる.それらの試料の組織を光学顕微鏡で析出状態をチェックしたのち,電解抽出分離により採集した粉末,あるいは熱処理したままの試料のX線回折を行って回折ピークの同定と格子定数測定を行う.化学量論組成の参照用試料としては,低温で析出させたセメンタイトはほぼ化学量論組成に近いと考えられることから,600℃で時効処理したフェライト中のセメンタイトを用いる.X線回折を行った試料から幾つかを選択して,さらに中性子線回折実験を実施してCのサイト占有率の定量解析を試みる.またセメンタイトはオーステナイトと安定に平衡する可能性があることがわかったので,この温度領域(900℃から1100℃)で長時間熱処理を実行し,セメンタイトが黒鉛へ分解するか否かを調査する.これらの結果を踏まえながら,フェライト,オーステナイトの自由エネルギーもクラスター変分法で計算し,相境界や活量などの熱力学データとともにCALPHAD法に導入してFe-C2元系状態図を再計算する.
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Research Products
(2 results)