2016 Fiscal Year Research-status Report
高温酸化により形成する保護性アルミナスケールの組織制御による高機能化
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16K14436
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 重成 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (10321960)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 保護性アルミナ皮膜 / 組織制御 / 内部酸化 / 相変態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、保護性アルミナ皮膜の組織制御法を提案し、アルミナ皮膜の耐酸化性をさらに向上させる事を目指している。 アルミナ形成合金を高温酸化すると、アルミナ皮膜が形成する前段階として母材金属および母材中に含まれるCr等の酸化物(遷移酸化物)が合金表面に形成し、その後、保護性アルミナ皮膜が形成する。本年度の研究では、この酸化初期に形成する遷移酸化物が保護性アルミナ皮膜の組織、特に結晶粒径におよぼす影響について、Fe-Cr-Al合金を用いて、放射光を用いたIn-situ高温XRDおよびTEMによる組織観察から検討した。 1)アルミニウム濃度が低い合金では、アルミニウムは遷移酸化物直下に形成したアルミニウムリッチなアモルファス構造の酸化皮膜直下で内部酸化する。最終的に形成する保護性アルミナ皮膜の粒径は、この内部酸化物のサイズおよび量に強く依存していることがわかった。高Cr合金では内部酸化物の量が増加し、その結果アルミナ皮膜を構成する結晶粒径は小さくなるが、形成する内部酸化物の量が少ない低Cr合金では結晶粒径は大きくなった。 2)アルミニウムの内部酸化が生じない、高アルミニウム濃度の合金では、アモルファス構造の酸化皮膜は、保護性アルミナ皮膜へと直接遷移したが、この場合でも、高Cr添加合金では、最終的に形成した保護性アルミナ皮膜の結晶粒径は小さく、一方、低Cr合金では大きくなる事がわかった。 本年度の検討で用いた合金は、FeおよびCrを高濃度で含む合金であり、準安定相―安定相変態を経由せずに安定アルミナが形成したため、当初の目的であったアルミナの相変態を利用した場合とは、アルミナ皮膜の組織形成機構は異なるが、アルミナ皮膜の組織制御法として新たに提案できる手法を発見することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、異なるAl, Cr濃度を有するFe-Cr-Al合金上に形成するアルミナ皮膜の形成挙動とその後のアルミナ皮膜の成長挙動の関係を明らかにする事を目的として研究を進めた。その結果、以下の新規な知見が得られたためである。 1)合金中のAl、Cr濃度に依存して、アルミナ皮膜の組織(結晶粒径)が異なり、それがアルミナ皮膜の成長速度に強く影響を与えていることが明らかになった。すなわち、結晶粒径の大きなアルミナが形成する低Cr濃度の合金では、Al濃度に依存せず、アルミナ皮膜の成長速度は遅くなるが、高Cr濃度の合金では、結晶粒径が小さくなり、その結果、皮膜の成長速度が速くなることが分かった。 2)アルミナ皮膜の組織形成挙動におよぼす合金中のAlおよびCr濃度の影響についての考察を進め、低Al合金では初期に形成する内部酸化物がアルミナ皮膜の核生成サイトとして働くためであり、内部酸化物が形成しない高Al合金では、初期に形成する遷移酸化物を構成する結晶粒径が強く影響を与えることが明らかとなった。 当初予定していた、Y等の活性元素がアルミナ皮膜の組織形成挙動におよぼす影響に関する検討は完了していないが、これは上述したAl, Crの影響が当初の予想よりも強く、その現象をより明確に理解する事により、アルミナ皮膜の組織制御法の提案に関して、更なる研究の進展が期待されると判断したためであり、実際に、本年度の研究成果から、新たな結晶粒組織制御法が提案できる可能性が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討から、高温酸化で形成するアルミナ皮膜の組織制御のための手法として、1)準安定-安定相変態を利用、2)アルミナの核生成頻度を利用 の2種類の可能性が明らかになった。一方、商用合金には添加が必須となっているY, ZrやHf等の活性元素がアルミナ皮膜の組織形成におよぼす影響については未解明となっている。特に、活性元素はアルミナの粒界上に析出すること、それによりアルミナ皮膜中の物質移動挙動が異なることが広く知られていることから、活性元素はアルミナ皮膜を構成する結晶粒の形成および成長に影響を与えることが予想される。そこで、今後の研究では、まずは、合金中に含まれる活性元素がアルミナ皮膜の組織に形成におよぼす影響を明らかにする必要がある。 具体的には、一般的に添加されるYやZr, Hfがアルミナ皮膜の組織形成におよぼす影響について、さらに、組織形成後の結晶粒粗大化におよぼす影響について、これまでと同様の実験手法(放射光を用いた高温X線回折実験、TEMを用いた詳細な微細組織観察)を用いて検討し、これまでの研究成果と併せてアルミナ皮膜の組織形成挙動におよぼす異なる元素の役割を把握する。さらに、異なる過程を経て形成した保護性アルミナ皮膜の長時間の成長挙動について、アルミナ皮膜の組織変化と成長動力学の関係を定量的に把握し、最終的に優れた耐酸化性を有する保護性アルミナ皮膜を形成させるための合金設計に関する指導原理を提案する。
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Research Products
(2 results)