2016 Fiscal Year Research-status Report
細胞表層の界面制御によるレアメタル高度分離材料の創成
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16K14462
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
後藤 雅宏 九州大学, 工学研究院, 教授 (10211921)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | レアメタル / 金ナノ粒子 / バイオソープション / 生物吸着 / 分離工学 / リサイクル / 細胞吸着 / 大腸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、遺伝子組み換え大腸菌によるバイオミネラリゼーションを利用することで、「金属回収」と「高機能材料(金属ナノ粒子)の合成」を一段階で達成する、新規な金属回収プロセスの開発を目指した。回収対象として貴金属の一つである金を選択した。すなわち、金イオンを、バイオテクノロジー分野において盛んに研究されている生体分子修飾金ナノ粒子として還元・回収する技術の構築を目標とした。 そのための戦略として、酸化還元酵素と機能性タンパク質の融合タンパク質を設計して酵素反応系を大腸菌内に構築することで、機能性タンパク質が修飾された金ナノ粒子を細胞内部(in vivo)で一段階調製する方法を発想した。 その結果、pG-BsGLD-H6C発現大腸菌を用いて、BsGLDの酵素反応により産出したNADHを還元剤として用いて大腸菌内で金ナノ粒子を調製し、金イオンの高効率回収に成功した。電子顕微鏡観察(TEM)により平均粒子径を算出した結果、金ナノ粒子の粒径は24 ± 17 nmであることがわかった。SDS-PAGEおよびウェスタンブロッティングによりpG-BsGLD-H6Cの修飾を確認した。さらに、ELISAにより、タンパク質の機能を損失することなく、金ナノ粒子に機能性タンパク質を修飾可能であることが示された。 以上より、大腸菌を用いたバイオミネラリゼーションによる金属回収は、レアメタルや貴金属の分離・回収および機能性材料としての素材化を室温・ワンステップで達成できる付加価値の高い金属資源の回収技術を構築できる可能性を秘めていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レアメタルの確保は、資源の少ない日本にとって、重要な課題となっている。近年、都市鉱山および深海底の鉱物が新たな金属資源として注目されている。しかし、複雑な組成を有するこれらの資源から目的金属のみを分離回収するのは容易ではない。したがって、未利用資源からのレアメタルの分離回収に向けた高効率技術の開発が急務とされている。金属の分離回収法としては、溶媒抽出法が主に用いられるが、この方法は有機溶媒を大量に使用するため環境負荷が大きいという欠点を抱えている。 この問題を解決する金属回収の新しい方法として、本研究では、生物材料を用いた金属の分離回収技術に注目した。具体的に本研究では、大腸菌を用いて、高効率かつ環境負荷の小さいレアメタルの分離回収技術の確立を目的とした。 本年度は、初年度の実験計画に従い、遺伝子工学的手法により、大腸菌にバイオミネラリゼーション機能を付与することで、「金属回収」と「高機能材料(金属ナノ粒子)の合成」を一段階で達成する新規な金属回収プロセスの開発を行った。回収対象として貴金属の一つである金を選択した。 具体的には、酸化還元酵素(Bacillus stearothermophilus由来グリセロールデヒドロゲナーゼ:BsGLD)と機能性タンパク質(protein G:pG)および金結合性ペプチド(His6Cys)の融合タンパク質(pG-BsGLD-H6C)を設計し、酵素反応系を大腸菌内に構築することで、機能性タンパク質が修飾された金ナノ粒子を一段階調製することに成功した。pG-BsGLD-H6C発現大腸菌を用いると、酵素反応を介して、金ナノ粒子が調製されることが示された。得られた金ナノ粒子は、水中に安定に分散し、特定のタンパク質を検出するセンサーとして応用可能であることも示し、予定通り進行したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、計画に従い、希土類金属へ高い選択性を示す配位子を、大腸菌表層に導入することで、希土類金属に対して高い選択性を有するバイオ吸着剤の開発を行う。 これまで、大腸菌表層に存在するアミノ基を利用して、ジグリコールアミド酸型配位子を修飾した。この化学修飾大腸菌を用いて、希土類金属と一般金属との分離性能を評価した。その結果、化学修飾大腸菌を使用した場合、未修飾の大腸菌と比べてpH 2から3の領域で、希土類金属の吸着率が著しく増加することがわかった。大腸菌にジグリコールアミド酸型配位子を修飾することにより、希土類金属に対する選択性が向上することが示された。また、Nd3+、Dy3+およびLu3+の飽和吸着量をLangmuirの吸着等温式により算出した結果、最大で2.6倍増加することがわかった。しかし、この修飾法は、菌体の表面構造が変性してしまうため、吸着剤として繰り返し利用するには課題が残された。 そこで、次年度は、細胞への刺激を低減するために、新たな修飾法を提案し、バイオ吸着剤の改良を試みた。すなわち、予めジグリコールアミド酸型配位子を修飾した高分子(Polymer 1)を合成し、Polymer 1と細胞膜間の静電相互作用および、配位子が有するカルボキシル基と細胞表層のアミノ基間のアミド結合の形成により、細胞の表層修飾を行う計画である。合成した吸着剤を用いて、希土類金属と一般金属との分離性能を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度の研究計画を遂行するための主な装置・設備は、これまで研究室で蓄積した設備にて、ほぼ賄うことが可能であった。特に初年度は、主に細胞機能の改変を中心に研究を実行したため、実験に必要な物品費が従来から揃っており、効果な試薬や器具の支出を必要としなかった。また、次年度に高価な試薬を必要とする細胞表層の化学的改変を計画しているので、意識的に次年度への繰越を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
費用の多くは、細胞表層の化学的改変を行うためのペプチドなどの高価な試薬類(消耗品類)となることが予想される。また、次年度は、多くの金属分析がICP-AESで行う必要が出てくるので、高価なアルゴンガスの費用を計上している。
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Research Products
(8 results)